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コラム

第179回

「チャレンジとアイデア」

「一夜若く楽しい人々と高楼夜宴の後、家に帰って暁に覚め、起坐して独り茶を啜り、しらじらと明くなるうちに、ふと”暁”をさとると訓むことに感嘆した。しかもさとるはまた了るでもあり、了はおわるでもある。なるほど、何だかこの頃ようやく、人生というものが、しらじらと、夜の明けるようにわかってきた気がするが、それがいつの間にかわが人生の了りでもあるか――凝然として感じ入った。しかし我々は、かつて始まりらしい始まりを持ったことがあっただろうか。私は今日、やっと始まりらしい始めを持つことができたと思う」

この言葉は、陽明学の権威として、政界や多くの財界人の指南役といわれた、安岡正篤師の77歳の喜寿会での、挨拶の結びの言葉です。77歳の安岡正篤師の「今日から始める」というチャレンジ魂に触れ、この場にいた人達は勇気づけられて背中を押され、新たな事業が産まれたといいます。

ここ数年、企業の繁栄の在り方が変わりました。今の時代、企業の競合は「変化」です。変化とは、価値の変化、進化であり、この変化に向けてのチャレンジが、企業の存続を決めます。

新しい事業へのチャレンジの起点は、「アイデア」にあります。いつもの顔ぶれ同士が、同じ場所で、会議で議論していても、良いアイデアが出てくることは少ないものです。

アイデアが生まれるのは、多くは「異質の二つのアイテムが組み合わされた時」です。魅力的で新鮮な「組み合わせ」は、一箇所に集まっているのではなく、偏在していることが多いものです。

アイデアを生む発想力は、様々な業界の人々が一同に出逢い、議論し、それぞれの記憶を徹底的に「検索」し、適したものを意識の表面に浮かび上がらせる力にあります。その力は、鍛え磨き続けないと出てきませんが、脳が悲鳴を上げるまで考え抜いて、人との交わりや現場から、ふっと泡が上がってくるように、アイデアの核が浮き上がってくることがあります。

1985年以降、ビル・ゲイツが世界を大きく変えました。
アイデアとの運命の出会いの前提条件は、「飢え」です!ハングリーでないとアイデアの核が浮き上がってきても、気づかないまま、すれ違って終わってしまうのかもしれません。

デジタル・グローバル社会で、偏在するアイテムを「組み合わせて」価値あるアイデアを見つけたいものです。

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