第109回
「シンガポール」
過日、7年ぶりにシンガポールを訪ねた。以前にも増して、ゴミも電柱もなく、至る所に世界を代表するブランドショップがウィンドウを飾り、街行く人達は柔和な表情で楽しそうに歩いていた。
整備された地下鉄、道路、学校、高層ビル、安全な治安、400万人の人口といわれる小さな島国にも関らず見事なインフラが存在していた。そして、生活商品は、世界各国から仕入れた良質な商品が豊富に並び、日本と変わらないプライスで販売していた。(最近、アジアで円の価値が下がり、買い物をする際、以前のような割安感がなくなってきている。)
現地で、14 年前に靴の製造小売販売会社を創業した(元メンバー)経営者に案内された人気の広東料理店で、極上の蟹や魚を味わいながら、シンガポールの現状を聞いた。
大卒の初任給は、20万位、マンションは、3,000~5,000万程、車は極めて高額、欲しい家電は大半の家庭で揃っている。そして、平均的な収入のビジネスマンやファミリー達は、日常の生活の中で、百貨店や商業施設内のレストランを使用しているとのことであった。
シンガポールは、今、確かに豊かな風が流れている。 「資源も技術もない小さなこの国が、何故こんなに豊かなのか?」 その背景には、イギリスの植民地化された際、東南アジアの最適な交易ルートとしてシンガポールに着目した、イギリスのトーマス・ラッフルズというアントレプレナーがいた。
ラッフルズが、この地に港を開き、東南アジアの交易ルートを作り、シンガポールは大発展を遂げた。そして、戦争に翻弄された後、都市国家として独立した。初代首相のリー・クアンユーは、通商都市コンセプトに、チャンギ空港、関税廃止、教育水準の向上、マナー管理(チューインガム禁止、落書きにはムチ打ち刑、公道上での泥酔禁止、拳銃の発射は死刑、乞食厳禁)などを始め、ルールを徹底した。
また、IT知識集約国家の道を追求し、法人税10%代、個人取得税20%にし、海外からの企業進出を開放し、企業や人材が集うプラットホームとして、国全体をインキュベーションステージとした。
現在、シンガポールの国民年金基金・過去25年間の平均利回りは、なんと10%となっている。そして、リー・クアンユー氏が基金の名誉理事長を努め、海外のベトナムや中国などに投資し、資金運用を国が主体となって行っている。
昨年、話題の中心人物となった村上ファンドの村上氏が、シンガポールに住まいや会社を移転したのは、こういった環境だからと思えた。
ボーダレスの経済社会において、シンガポールのポジションは、日本企業にとって東南アジア攻略に向けての重要な拠点であり、この国との接点から、日本の未来のありかが、見えてきた。