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コラム

第110回

「語り継がれる言葉と経営」

かつて、「企業の寿命は30年説」といわれた。最近では、激変する環境変化により、企業事業生命は10年を切ったといわれている。脚光を浴びた企業や社長が、急に姿を見せなくなるケースが後を絶たない。

一方、100余年にわたり脈々と発展している企業が存在している。
 こうした企業に共通して言えることは、「先人から引き継がれる経営哲学・精神・DNAを表す共通言語」を持って、これを継承していることにある。

激変する環境を潜り抜け、「伊右衛門」や「プレミアム・モルツ」をはじめ、常に新たな商品をヒットさせ続けているサントリー社では、いつの時代にも通用するチャレンジスピリッツ(DNA)が、「やってみなはれ」という言葉となって語り継がれている。

我が家の冷蔵庫の中は、サントリーダイエットビール、黒ウーロン茶、ハーゲンダッツのアイスクリーム、サプリメント、ミネラルウォーターといった商品群が陣取っている。

過日、親しくお付き合いしている同社の経営幹部の方々と、食事をしながら大ヒット商品「伊右衛門」を開発したマネージャーの方の話を伺った。

「伊右衛門」の商品開発には、5年に渡り様々な失敗があって、この商品が生まれたとのことであった。「これだけ永い年月、時間を費やし、しかも、多くの失敗と多大な損失を繰り返した人に、よくチャレンジする機会を与え続けましたね?」と質問をすると、サントリーには「やらぬ罪」という考え方があって、何もやらないよりやって失敗する人を評価するカルチャーが創業期からあるのだと教えてくれた。

サントリーは、1899年(明治32年)鳥井信治郎氏によって創業され、彼は「やってみなはれ、やってみなわかりまへんで」と、理屈を言う前に体を動かせと、社員一人ひとりに口癖のように、語っていたという。

単品で一千億の売上を超えるスーパー商品「伊右衛門」は、京都の老舗の福寿園とのコラボレーションと、斬新な竹筒デザインがなかったら、これだけ大ヒットしなかったのかも知れない。こういった柔軟な発想にチャレンジする「やってみなはれ」スピリッツと、それを受け入れる土壌があったから、「伊右衛門」が創生された。

「減点主義」のはびこる大企業が多い中、歴史観を持って開放的スタンスで、チャレンジスピリッツを持ち仕事に向き合うサントリーの皆さんと会話を交わすと、常に様々なイマジネーションが沸き、楽しい語らいとなって酒が進む。

経営は、その時代共に生きる環境適応業であり、いつの時代にも通じる経営哲学やスピリッツが「言語」となり、家訓のように語り継がれる企業が輝いている。

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