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コラム

第111回

「企業内起業家」 

不況期、「日本型経営は通じなくなった」とソニーを始め、欧米型経営を目指した多くの企業が苦戦している。一方、トヨタ・キャノン・ホンダといった日本型経営を貫いた企業は、史上最高益を更新している。この強さの源泉は、企業内に起業家を長期的に育てたことにある。

来月、「企業内起業家」をテーマにした書籍を発行することになった。「限りある人生の時間で、できるだけ納得のいく価値のある仕事をしたい。商事内でやった方が、スケール感を持ってできるからね!」と、十三年前、現ローソン社長の新浪さんが私に語った言葉だ。

新浪さんは、三菱商事で給食会社ベンチャーを興した、企業内起業家である。この書では、新浪さんのような企業内起業家が、次世代の経営をイノベーションに導く存在であり、組織で働く個人にとっても、企業内起業が、第三のキャリアパスであることを書いた。

企業が新規事業を立ち上げる際、いろいろな方式がある。社内にプロジェクトチームを作り、事業部として育てる。或いは、母体企業から切り離して子会社化することもある。

こうした従来型の新規事業開発は、母体企業の傘の下で行われる。従って、最終的な経営判断や人事制度なども、母体企業の影響を色濃く受けることになる。これでは、自立した起業にならない。

私が提唱する企業内起業とは、そうした従来の新規事業開発や安易な社内ベンチャーでなく、企業内起業家が企業の経営資源を活用しての創業や、カーブアウト、ジョイントベンチャー企業としての起業である。

企業の経営資源を使いながら、自立した企業として成功する為には、いくつもの難問題をクリアしなければならない。企業内起業には「企業内」ゆえのたくさんの壁が立ちはだかり、ベンチャー企業を立ち上げるより、難易度が高いとも言える。

それでも、個人の起業は、仲間がいても、時間・人脈・資源・金・情報と全てにおいて限られた条件の中で闘っていかなければならないことに比べ、はるかに有利なスタートが切れる。
以前ほど大企業にいる利点は少なくなってきたといえども、これまで築いてきたブランドや信頼感や市場影響力は大きい。現存の企業は、有形無形の経営資源を持っている。「企業内起業」によって自己実現を目指す道があり、第三のキャリアパスとして、企業内起業がクローズアップされることを願っている。

明治維新の頃、渋沢栄一のような企業家を支援するインキュベーターの存在と、岩崎弥太郎をはじめとする多くの「起業家精神」旺盛なベンチャー企業の勃興があった。そして、起業家達の誕生が社会を繁栄させた。

本書を読んだビジネスマンや経営者たちが、積極的に企業内起業に取り組み、企業内起業家が一人でも多く輩出されることを願っている。

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