column

コラム

第298回

「社外取締役のミッション」

6月21日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。

社外取締役の役割は会社経営のコーポレートガバナンス強化にあるが、その人選の見直しが高まっている。経営経験豊かな社外取締役を迎えることで、防御だけではなく「攻めと守りのガバナンス」を実行することで企業価値を高め、持続的成長に繋げることが肝要だ。

「社外取締役のミッションと人選」についての相談をよく受ける。2021年の会社法改正で社外取締役の設置が義務化され、ほぼすべての上場企業が社外取締役を置くようになった。

社外取締役の役割は会社経営のコーポレートガバナンス強化にある。社外取締役は会社経営を監視しつつ、必要に応じて経営体制を刷新する役割を担う。

コーポレートガバナンス強化の背景には、会社経営に与える株主の影響力が強くなったことがある。かつては銀行が融資を通じて会社経営に大きな影響を与えていたが、規制緩和や企業の資金調達の手段が多様化したことにより、銀行の影響力は低下した。

企業は不正のない健全さを保ち、株主をはじめとしたステークホルダーの利益を最大化する運営体制が求められ、社外取締役を置くようになった。社外取締役には自社に不足する経験や、財務や法律の専門的知見を持つ人材を選任する企業が多い。

経営の監視・監督機能として「リスク判断できる人材」を選出することで、会社と株主の利益を守る「防御的役割」を持つ重要な位置づけになっている。しかし、コーポレートガバナンスの本質は持続的成長のための「攻めと守り」にある。

経営は未来を創ることであり、それにはリスクテイクも必要になる。投資による「攻めの経営」でパフォーマンスをあげるには、経験豊かな経営者を社外取締役に迎え、自社に不足するスキルを補い実効性を高めることが肝要だ。

形式的な社外取締役を迎えることで、実効性が上がらず損失を生むこともある。短期的なリターンを求めがちな物言う株主(アクティビスト)による、営業キャッシュフローを株主に還元させる社外取締役を選任する風潮もあるが、近視眼的ではなく長期視点で企業価値を上げなければ、企業はやがて衰退していく。

グローバル企業に変貌したリクルートはソニーの社長に就任した十時さんをはじめ、経験豊かな経営経験者を社外取締役に迎えガバナンス体制を整えている。持続的成長を目指す企業には、長期視点で先を読んだ戦略ストーリーが描かれている。戦略を実行する社外取締役を選ぶには、各取締役のスキルを「スキル・マトリクス」で可視化し、不足するスキルを補える人物像を明確にすることが肝要だ。

そして企業理念・ビジョン・戦略ストーリーと照らし、スキルを持った経営経験豊かな人物を、第三者を交え選抜することだ。イノベーションの創出は、経営者にとって最大の課題だ。

マネジメント能力やリスクヘッジ能力を重視した取締役体制ではなく、パフォーマンスを上げる社外取締役を積極的に迎え、各取締役が持つ異なる強みによる「攻めと守りのガバナンス」で企業価値を高めることが、企業の持続的成長につながる。

コラムを毎月メルマガでご購読