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コラム

第297回

「エンジニアのEV挑戦」

5月12日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。

EVモーターズ・ジャパンはエンジニア起業家が起業し、今、同社の「EVバス」が各地で導入され始めている。クルマ作りにとどまらず、独自技術を活用したエネルギーマネジメント事業を展開していく予定だ。EVバスの普及が促進されることで公共交通システムの進化だけではなく、日本経済のイノベーションにも期待したい。

2023年3月1日、EVモーターズ・ジャパンの「EVバス」が渋谷区のコミュニティバス「ハチ公バス」の神宮ルートで運行をスタートした。

従来のバスのような加速・減速時の変速によるショックが少ない。乗客からは「排ガスのにおいがなく、静かで揺れも少ないので乗り心地がよい」と好評だ。

同社の独自技術のモーター制御システム(アクティブ・インバータ)はリアルタイムでトルク制御が可能で、走行時の加減速において電池消費をコントロールし、スムーズな出力制御により「低電力化とバッテリーの長寿命化」を実現した。

この革新的な技術を用いたEVバス・eトライクなどの製造・販売を始め、幅広いエネルギーマネジメント事業が高評価を得て「最優秀賞・中小企業庁官賞」を受賞した。

創業者の佐藤さんは日鉄エレックス(現・日鉄テックスエンジ)とソフトエナジーコントロールでエンジニアとして30年にわたりリチウムイオン電池の充放電応用システムの研究開発に従事し、中国でEVやリチウムイオンバッテリー生産をする主要バスメーカーへ同システムを提供することで生産拡大に貢献した。

新たな技術開発をテーマとした起業は既存ビジネスの価値観や慣習といった「障壁」が立ちはだかることが多い。EVモーターズ・ジャパンを創業する際、佐藤さんは蓄積したノウハウと信頼を最大限に活用し、国際規格の商用EV車両を生産するビジネスモデルを中国メーカーとの提携で構築した。

同社のEVミニバスの最大走行距離290キロメートルは一般的な国産コンバージョンEVを大きく超える。今後の事業展開はクルマ作りにとどまらず、環境配慮も踏まえ、独自の電池制御技術を活用したエネルギーマネジメント事業を広く展開していく予定だ。

世界の多くの都市では、公共交通機関の規制としてEVバスの導入が進み、EVバスの市場規模は急拡大している。その背景は、環境保護だけでなく、コスト削減やエネルギー効率向上のメリットがあるからだ。

一方、従来のバスよりも高価で、充電インフラが未整備の地域もあり、これらの課題を克服しなければならない。今後、EVモーターズ・ジャパンの電池制御の進化によるEVバスの走行距離の延長や、再生可能エネルギーを活用した充電インフラが整備されることで、EVバスの普及がより促進されることが期待されている。自動運転技術と組み合わせることで公共交通システム全体が大きく変貌を遂げるだろう。

1980年代に世界であれほど強さを称賛された日本企業の経営が衰退し、「失われた30年」と言われている。日本のエンジニア起業家の「技術革新と新しいビジネスモデル」による日本経済のイノベーションを期待したい。

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