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コラム

第174回

「宿場にて」

2012年の年明けは、雪深い那須岳の宿場で、薪ストーブと囲炉裏で暖を取りながら、宿泊している皆さんと、持ち合いの手料理と酒で新年を迎えました。

江戸時代から営んでいるこの宿は、大晦日に宿泊客達が一同に集い、酒を飲みながら年を越す文化が存続しており、なんとも心地いい晦日の夜でした。隣に居合わせた40年前から年末に宿泊しているという仙人のような方と飲みながら、次の様な話を聴きました。

「この宿は、昔から自炊も酒の持ち込みもチェックインも自由で、いつも同じ部屋を利用できる。あてがわれたパッケージサービスでなく、何もかまわないでくれるので、解放される。先人から受け継がれている「結」という助け合う仕組みでこの宿も支えられている。様々な生活の知恵や日常を楽しむ文化や風習が、今も残っている。ここに来ると心が浄化され、尺度が正しくなる。毎年この宿で居合わせた皆さんと、飲みながら新年を迎えるのが、極上の楽しみだ。

80歳になって、永く生きたいのではなく、最期までより良く生きることが大事だと考えるようになった。いつまで生きるか解らないけど、怪我をしてから毎日を人生最後の日だと思う。そして、生き方が変わった。自分は今日死ぬと思うと、永遠の願望やプライド、失敗する不安など何の意味もなく、本当に大切なことだけが残る。徳を求めて人生を送りたい。徳のある大人は、自分の為だけでなく、人の為に時間を使う。誰かの為に時間を使うと、命が輝き元気になる!

ここにいると、名誉も金も関係ない。世の中の、芯が見える!何が大切なのか。本当に大切な物は、目に見えない、自分の心の中にしかない。幸せは、人との繋がりの中にある。 多くの人は、物や立場を人と比較し、世間の目を気にして生きている。可哀想だ。なんで、もっと自分の尺度で、生きようとしないのか?」

「世界も日本も、いつ何が起こってもおかしくない」と、年頭に多くの卓見豊かな方々が語っていました。国が強くなったり弱体化したり、景気の良悪で収入が増減し、良くも悪くも変化は必ず起きるものです。

世の中が激動にさらされ、どんな環境になっても、時間は流れ、春を迎え、一人ひとりの生活は静かに続いていきます。今、ここ、胸いっぱい、人生の呼吸をしてゆきたいものです。

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