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コラム

第258回

「変わらぬもうけ生む要素」

今月は、1月23日の日経産業新聞BusinessDailyへの寄稿文の反響が大きかったので、紹介させていただきます。

「頑張っているが、もうからない」と、起業家から相談を受けることがある。現状を聞くと、「マーケットシェアを拡大してから、利益を確保する」と、顧客を見ずに、シェアの獲得に奔走している。そのうちキャッシュフローが枯渇し、現実離れした予測数値を入れた計画での増資や大手企業との資本提携を求め、迷路に入り込んでいる。

デジタル社会では、人工知能(AI)やあらゆるモノがネットにつながる「IoT」の進化により、提供者と利用者がダイレクトに結びつき、業界の垣根を越えた経済圏が誕生した。フェイスブックやアマゾンなど「GAFA」と呼ばれる米国企業は、先行投資によって規模を拡大し、プラットフォームに富を集めて利益を得ている。

こういった成功モデルが、スタートアップの起業家たちに影響を与えている。しかし、例えばアマゾンなら、クラウドサービスの「アマゾン・ウェブ・サービス」(AWS)が利益の大半を稼いでいる。それぞれ独自の収益構造があり、顧客に新たな価値を提供し利益を生んでいる。

収益を生む前提は「自社が提供する価値ある商品やサービスを顧客に選択してもらう」こと、そして「顧客が払う価格より、コストが小さいこと」だ。このメカニズムから外れ、提供価格とコストに差があれば、当然利益は出ない。

多様なウェブサービスやデバイスの性能や技術はどんどん発達し、生産性が極限まで最適化され、コストは限りなく下がった。最新技術によって独自の収益構造化が可能になり、「黒字になる型」ができる。そして、自社の市場ポジションを築くことができる。

「健全な企業活動」ができているかにも、収益は左右される。近年、多様なワークスタイルで仕事をする人や組織が増えている。起業家たちは、よく「本社から離れたサテライトオフィスなど、自由に働ける環境を用意している。気の合う仲間が集まり、個人を尊重する社風や仕組みを大切にしている」という。しかし実態として、リーダー不在で、ゴールとルールが不明確な組織が散見される。

軌道に乗っているスタートアップには、一世代前のリクルートやヤフーなど、かつてのスタートアップの成長発展に貢献した人材が、取締役や監査役として参加していることが多い。経験豊かな人材は、リーダーが向かう方向を定め、チームメンバーと夢中になってケイパビリティー(全体的な組織的推進能力)を高めていけば、健全な組織になることを知っている。

また、彼らはスタートアップと大手企業が連携する際、大手企業の経営層と話す言葉を持ち、関係者の利害を調整し、連携によるスタートアップの成長をけん引している。

どんな環境変化が起きても、もうけを生む基本要素は変わらない。

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