column

コラム

第268回

「スプラウトのストーリー」

最近はどこのスーパーの野菜売り場でも「ブロッコリースプラウト」を見かける。スプラウトとは発芽直後の野菜のことだ。日本のスプラウトというば「かいわれ大根」がある。過去には食中毒の感染源と疑われたことがあり、生産事業者は次々と倒産した。

国内シェア首位だった村上農園も危機を迎えたが、全社一丸となり、発芽栽培の技術を生かした新たな商品開発に取り組んだ。そして誕生したのがエンドウ豆の若葉「豆苗(とうみょう)」だ。安価で栄養豊富な野菜である豆苗はヒットし、倒産の危機を脱した。

村上農園は新たな商品の情報を求め、ブロッコリーのスプラウトが米国で注目されていることを知る。ブロッコリースプラウトに含まれるスルフォラファンという物質にがん予防効果があるという研究結果が、米国ジョンズ・ホプキンス大学から発表されたためだ。

日本での特許利用権を得るためのライセンスを持つポール・タラレー博士を訪ねるが、門前払いの日々が続いた。2年を超えて粘り強く交渉を続け、発芽野菜栽培のノウハウを持つことや、かいわれ大根の国内トップ企業であること、野菜を通じて人々の健康に役立ちたいという熱意を伝えた。これで独占的に生産販売する権利を獲得した。

村上農園はブロッコリースプラウトの販売にあたり「なんとなく体に良さそうな野菜」ではなく「がん予防のために摂る野菜」という機能性目的で野菜を買うという全く新しい消費パターンをつくり出した。

情報があふれるインターネット社会では、人の心を動かすブランドに育てることが肝要だ。村上農園は当時一般的でなかった英語の「Sprout」から「スプラウト」に名称を変え、人に伝えたくなる戦略的ストーリーで注目を集めた。

食中毒騒動による極限状態から活路を求め、ブロッコリースプラウトのがん予防効果を知り、生産販売に至るストーリーをメディアやホームページで伝えて興味と関心を呼んだ。この物語が多くのメディアで取り上げられて健康志向の人々が共感し、生産が追いつかないほどのブームを起こした。「ブロッコリースーパースプラウト」コーナーがスーパーの野菜売り場に設けられ、スプラウトというカテゴリーを確立した。

日本の食糧自給率は4割前後と、主要先進国で最低の水準にある。近年の度重なる災害もあり、野菜の価値高騰への危機感は強い。海外依存が強いほど、国際情勢によって輸入制限が起こり、食糧不足に陥るリスクは大きくなる。

食糧問題はエネルギーや環境・医療課題とも、結びついている。村上農園の植物工場は光や気温などの生育環境を制御し、災害や国際情勢に左右されずに安定した生産を実現している。通年変わらない価値で供給できる生産体制で、人々の健康に貢献している。

コラムを毎月メルマガでご購読