第343回
「ロンジェビティ」という新しい潮流 健康寿命から「キャリア寿命」へ。人生100年時代、企業はどう変わるのか

「ロンジェビティ(Longevity)」という言葉をご存じだろうか。
直訳すれば「長寿」だが、いま世界で注目されているロンジェビティは、単に寿命を延ばすことではない。ライフサイエンスやバイオテクノロジー、AIなどを活用し、病気になってから治療するのではなく、健康な状態をより長く維持する「Healthspan(健康寿命)」を延ばそうとする潮流である。
老化研究、AI創薬、再生医療、予防医療、ウェアラブルなど、さまざまな技術が融合し、ロンジェビティは医療だけでなく、食品、フィットネス、金融、介護、AIなどを巻き込む新たな産業領域になりつつある。
私は、このロンジェビティをもう一歩広く捉える必要があると思っている。
それが「キャリア・ロンジェビティ」である。
つまり、
人が生涯を通じて健康で、生き生きと働き、社会に価値を提供できる「活躍寿命」をいかに延ばすか
という考え方だ。
日本では65歳以上の人口が総人口の約3割を占め、少子化による人手不足も進んでいる。「高齢者をどう雇用するか」は、もはや社会政策だけの問題ではなく、企業経営そのもののテーマになっている。
これまで日本企業では、定年を一つの区切りとしてキャリアを終えることが一般的だった。しかし、60代、70代になっても、健康で意欲があり、豊富な経験や人脈、知恵を持つ人は多い。
私自身、シニア世代の方々に仕事で力を発揮していただく中で、その価値を実感している。
これからは「何歳か」ではなく、「どのような能力や経験を持ち、どんな役割を担えるか」で人を見る時代になっていくのではないだろうか。
さらにAIの進化は、人の可能性を大きく広げる。AIに仕事を奪われる未来も考えられる一方で、AIによって人間の能力を拡張し、70代、80代になっても経験を生かして新しい仕事や事業に挑戦できる社会もつくることができる。
そのためには、単に長く働くのではなく、
健康、脳機能、スキル、そして経済的基盤を、生涯にわたってアップデートしていくこと
が重要になる。
企業の役割も変わるだろう。
社員の健康や学び、キャリア形成を「本人任せ」にするのではなく、企業が選択肢を提供し、一人ひとりが主体的に人生を設計できる環境をつくる。健康、学び直し、AIリテラシー、副業、起業、セカンドキャリアなどを支援することは、これからの福利厚生ではなく、人材戦略そのものになっていくと思う。
そして、ここには大きなビジネスチャンスもある。
日本が抱える高齢化という課題を、社会保障費の増大という「負担」だけで捉えるのか。それとも、経験豊かな人材が長く活躍し、新しいサービスや消費、新産業を生み出す「ロンジェビティ・エコノミー」と捉えるのか。
私は後者に大きな可能性を感じている。
人生100年時代とは、単に100年生きる社会ではない。
何度でも学び、挑戦し、役割を変えながら、長く社会で活躍できる社会である。
「何歳まで働くか」ではなく、「何歳まで活躍できるか」。
「定年をどう延ばすか」ではなく、「活躍寿命をどう延ばすか」。
この発想への転換が、これからの企業と人材戦略に求められるのではないだろうか。
ロンジェビティとは、単に長生きするための科学ではない。
より長く、健康に、豊かに生き、働き、社会とつながり続けるための新しい社会設計である。
私自身もこれから、ロンジェビティとキャリア・ロンジェビティという視点から、人々の幸せと企業の成長をどう両立させ、新しい産業や事業を生み出していけるのか。さらに考え、実践していきたいと思っている。
