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コラム

第284回

「クリティカルシンキング」

9月10日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。

「クリティカルシンキング」

「君はどうしてその事業をやりたいの」起業家から相談を受ける時、私が必ず聞く言葉だ。「どんな事実に出会い、どんな動機で、誰のために何をしたいのか」。どんな社会に変革していきたいのかを確認したいからだ。

多くの起業家からドキッとしたと言われる。現場を徹底的に見て顧客を分析することをせず、うわべの情報や現象面だけで「これをやればもうかる」と考えた事業プランには「世界観や、人や社会にどう寄り添うか」といった思想がない。

「クリティカルシンキング」

起業は「すでに起こっている事実から元に戻ることのない変化」や「これからの時代に大きな影響を持つにもかかわらず、まだ一般には認識されていない変化を知覚し分析すること」から始まる。

社会を変革していく起業家は虫の目で「現場」で起こっている事実から、川の流れを見極めるような魚の目でビジネス機会を見つける。そして「クリティカルシンキング(本当にこれでいいのか)」の思考で、自問自答を繰り返しながらビジネスモデルを徹底して磨き上げていく。その過程でベンチャーキャピタルなどから資金調達を得て成長していく事業は、広い視座で世界の潮流を見渡した起業家の思想が宿っている。

新型コロナによって世界は一変した。当社や支援先のスタートアップも影響を受け、ワークスタイルも変わった。この感染症に対抗する有効な最適解はまだ誰にもわからない。企業の存在意義を突き付けた新型コロナは「自分たちは何者なのか」を立ち止まって考える機会になった。コロナ禍の1年半で多くの気づきを得た。自分たちのビジネスを見直すことで、価値の再発見の好機となった。環境も人々の意識も変化し、昭和的価値観から平成令和時代の価値観に移り変わり、新たなビジネス機会が生まれている。

「クリティカルシンキング」

私はインキュベーターとして、30年近く起業家と共に新規事業の立ち上げに取り組み、ビジネスの本質は「人や社会の問題解決」にあるとの考えに至った。温暖化を始めとする地球レベルの問題が増大し、企業の役割である社会課題の解決がビジネスの主軸になってきている。

ここ数年、日本のIPOが小粒で調達額が少なく、海外投資家の日本株離れが続いているのは、国内をフィールドにしているスタートアップが多いからだ。

2022年4月、東京証券取引所の市場区分が変わる。コロナ後の米国や欧州のスタートアップは、脱炭素やデジタル分野で世界を見据えたユニコーン企業の創出が加速している。新経済を創っていくスタートアップには、日本だけを見るのではなく、社会課題を解決するグローバルな視座で世界に果敢に挑戦するユニコーン企業を目指して欲しい。

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