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コラム

第83回

「陰陽太極図」

この図。ご記憶にある方も多いのではと思いますが、陰陽を一対の範疇で示した、中国の古代哲学理論を図で表したものの一つです。

この世の全ては、2極に分類される。しかし、その芯の部分にその逆のものが入っている。つまり、世の中の全ては、白黒はっきりくっきりとわけられるのではなく、互いの良さを補完し合って、初めて均衡が保たれるという事を表しているように感じます。

丸の中の●が、なんとも存在感があり、細胞を連想させる動きを感じる不思議な構図で、見ていると妙に力が湧いてくるので、時々眺めては、世の中の理不尽に対して気を静めております。そう、悪い事ばかりは続かないのです。良い事ばかりも続かないけど。

悪いと思うときも良い事の始まりがあり、良いことばかりの時も陰りのあることの始まりはあるという事を忘れずにいると、多くの艱難辛苦も乗り越えられるし、今の幸福を素直に感謝し、他の人を敬い、慕い、恩を忘れずにいられます。 

どちらかに偏るとかならず崩れるのですから、平衡を保つということがいかに大事であるか、古代から伝えられているのです。

人類の知能の発達も、偏れば天変地異の要因を造り、経済も偏れば悲劇が生まれます。なによりも、人の心の平衡を保つことは、健康という幸福への一番の近道です。

「人はどう生きるべきか」という事で多くの諭しを受けることも身になりますが、陰陽の理論に基づく、人生観、医学も為になると思います。

誤解がないようにしないといけないのは、陰が影で暗いから悪で、陽は明るいから善ということではありません。互いに必要なのですから、善悪の区別ではないのです。

そして、陰陽説に始まり、私の好きな五行説があります。
木・火・土・金・水、5種の基本物質間における運動変化、この5つの間の生・克関係による相互連繋を解釈し、いかなるものも、相生、相克する運動の中で、強調と平衡を維持しているという考えです。

自然界はもとより、会社の中の人間関係でも思い当たる事があるのではないでしょうか。もちろん、家族の中でも同じです。恋人同士でも、親子関係でも、突き詰めるとこの説で整理できることが多々あるのです。

あきらめるということではなくて、知ることで、自分自身の感情を制御できて楽になるということなのです。人間は、神様から感情という宝物をもらいました。生息本能に基づく喜びや悲しみではなく、もっと人と人との心の通い合いを、表情や言葉で表せる感情です。

人との繋がりは、心の繋がりだと思うのです。心を平常に保てるお付き合いは最高です。

前置きが長くなりました。この心のバランスを保つということで、思い出した方がいます。おそらく私がお会いしている経営者の中で、この方ほど、人に心地よい接し方ができる方はいらっしゃいません。

それぞれ個性があって魅力的な方は大勢いらっしゃいますが、お会いしている最中に感じる風が、緑のそよ風という方はこの方だけです。

どんなに寒い日も暑い日も、話しているうちに心が穏やかになってしまいます。おそらく、この方の心の平衡が保たれているからだと解釈しています。その方は、東急ハンズの榊社長です。

榊社長とも長いお付き合いになりますが、初めてお会いした時から、榊社長は東急ハンズを見られたらいいのにと、吉井と共に、勝手な願望を抱いておりました。

ご本人は、不動産開発の専門で過ごされていらしたので、小売業の事は、遠い世界に感じられていたと思いますが、吉井も、榊社長の、ソフトな雰囲気で人をひきつける魅力の中に、鋭い視点と胆力があることに、東急ハンズの改革者としての資質を感じていたのだと思います。

今や、東急ハンズは小売店の域を超えて、ヒントマーケットという新たな創造のサポート企業として変革してきました。もちろん、私はハンズファンで、週に一度位は通っています。毎回面白いものを発見するので、飽きることがないからです。

東急ハンズのスタッフさんは、提供するというスタイルを崩さずに、誠意で接客してくださるところが魅力なのですが、それは、まさに榊社長そのもののスタンスに重なります。

榊社長の、優しさと厳しさを上手にバランス良く持たれているところ、いつお会いしても平常心でいらっしゃるところに、陰陽の図がはまってしまいました。

これからも、あらゆるバランスを保たれながらも、東急ハンズを世界に向けて成長させて頂きたく思っています。

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