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コラム

第300回

「人脈を築く人の生き方」

10月6日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。

人脈は一朝一夕で築けるものではない。縁を大切にし、「恕」の精神で思いやりを持って相手を深く理解することで人間関係が深まる。誰と歩むかで人生もビジネスも大きく変わり、魅力的な人との人脈がウェルビーイングにつながる。

「どうすればより強固で幅広い人脈を築けるのか」とよく聞かれる。人間関係を維持し、信頼を深く育てていくことは歳を重ねても悟ることのないテーマだ。

魅力的な人とのつながりを、多く持っていればいるほど、人生やビジネスにおいて心強い。特にビジネスでは誰と強いつながりを持っているかが重要だと、経験を積むほどに痛感する。また人生においては楽しく、彩り豊かになる。人脈を築くことは成功や幸福感を追求するための重要なスキルともいえる。

人との関係は、縁から始まる。最初の出会いの縁を大切にしないと関係は深まらない。同じ場所で同じ人に出会っても、縁を作れる人と作れない人がいる。縁を作れない人は「恕」のない人が多い。

恕とは思いやりである。相手の立場で、相手に寄り添って考えることだ。それには、相手を深く理解するために、必要に応じて質問を投げかけながら「聴く」ことが大切だ。傾聴することで言葉にどんな思いが含まれているのか、何を希望しているのか理解が深まる。

恕の気持ちがあれば、自分より目下の人に対して威圧することはない。目上の人や立場のある実力者に対しても、背伸びして自分を大きく見せようとすることもない。私が敬愛する人たちは、技術的なテクニックによる社交術ではなく、その人の気構えや心のスタンスによって人間関係が深まり、いつもおのずと人が集まる。

逆に、社交家で人の注意を引き、人に取り入ることの上手い人を見ていると、関係が深まることなく短期的な付き合いで終えている人が多い。互いが仕事や人生について「問い」を持っていなければ、縁に気づかず社交にしかならない。

目の前にいる人に心を寄せて「美点凝視」で深く理解し、相手の役に立とうとすれば好かれる。好かれると、好きになる。嫌な人だと思うと、相手もそれを感じてしまう。和顔で相手を理解し大事に徹すれば、おのずと関係が深まっていく。

一人の良縁の人脈ができると、その人を通じて重要なつながりをもたらす人脈が広がっていくことがある。レベルの高い人たちといると、いつの間にか視座も高くなり、新たな景色が見えてくる。

なにごともそうだが人脈も一朝一夕にできるものではない。大切な人脈を維持するにはメンテナンスを実践していくことだ。

私は相手が関心のあるテーマで役に立ちそうな情報をSNSでよく共有している。人脈の輪が途切れない人は日常的なツーウェイコミュニケーションを欠かさず、小さな約束を大切にする人が多い。

近代経済の父といわれる渋沢栄一は500社の企業設立に関わったインキュベーターだ。彼は聴き上手で、その人の才の特性を見出し、結合魔といわれ異能な人と人を結びつけた。真の人脈づくりが、人生のウェルビーイングにつながる。

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