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コラム

第156回

「新渡戸稲造の武士道」

最近、旧5千円札の顔である新渡戸稲造の代表作「武士道」の精神が、話題になっている。
30代半ばの頃、尊敬する経営者から紹介されて以来、私にとって「武士道」は、多読する書となった。「武士道」と言うと、戦場で戦っている武士のイメージがあると思うが、新渡戸稲造の描く武士道は、日本人として生きる心の軸の倫理にある。

新渡戸稲造は、1862年会津藩が下北の地で夢を託した南部藩の武士の子として育った。その後、「少年よ、大志を抱け」で有名な札幌農学校(現北海道大学)に入学し、内村鑑三と共に学んだ。

「武士道」は、「義」「勇」「仁」「礼」「誠」「名誉」「忠義」をキーワードとして論じているが、渋沢栄一の「論語」と「算盤」にも影響を与えたと言われている。

日本人の美学の根底には、何が美しく、何が醜いといった、西洋の唯物的な物やお金に軸を置いた考え方とは違い、人間の精神性に軸がおかれている。また、西洋は人間と自然を対立させている発想だが、日本人は自然の中の一部が人間と捉えている。

「日本人とは何か」という問いに、日本人の精神の根源にあるものは、一言でいうと「自律自尊」にあると、新渡戸稲造は語っている。

誰かに依存し、見苦しく生きていこうとか、人に甘えすがりついて、人を騙してでも自分だけ生き延びようといった生き様を根底から拒絶することが武士の心だと、説いている。

今、日本人の美学や生きるスタンスが失われているだけに、功利や利害、眼の前の打算を超えた「筋」を通す、生き方や「構え」が求められているのだと思う。

グローバル社会で、一人ひとりが生きてゆくには、「誇り、覚悟、決意、責任」を持って、本気で己に克つ「武士道」的な生き方が、今だからこそ、人も企業も国にも通じるように思う。

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