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コラム

第205回

「山古志の闘牛と復興」

夏休みに、日本の原風景と文化が継承されている、新潟の山古志を訪ねました。

里見八犬伝でも記された千年の歴史がある「闘牛大会」を、初めて観戦しました。
見たことのない1トンもの闘牛が激しく角を突き合い、頭と頭が「ゴツン」とぶつかる鈍い音が会場に響き、勇壮な大迫力の死闘に興奮しました。

隣に居合わせた年輩の牛持ちのオーナーから、「山古志の闘牛は、足腰が強く寒さや粗食に耐え、昔から棚田での農耕の働き手で、家族のような存在。”牛の角突き”は、村唯一の娯楽であり、伝統文化を受け継いだ郷土の誇り」との話しを伺いました。

今から10年前、山古志村は直下型の中越地震で崩壊し、存亡の危機を迎えた村です。
牛舎は倒壊し、牛持ちが大切に育てた角突き牛の半数は、命を落としてしまったとのこと。

長島村長(当時)の決断により全村避難指示が出たことで、生き残った牛たちも置いて行かなければならず、牛をつないでいたロープを切り、牛を残しヘリコプターで避難せざるを得ませんでした。
でも、どうしても牛を見殺しにできない、なんとしても助けたいと考えた牛持ちの人達が、避難所から抜け出し、余震の続く山古志に戻り、生き残った牛たちのすべてを、ヘリコプターまで使って無事に避難させたドラマがありました。こうした村民の努力が、今日の闘牛大会に繋がっています。

今、世界の人々のライフスタイルは、1998年に生まれたIT業界の巨人グーグルによって、一変しました。日本は、東京への一極集中が続き、企業や若者が地方から東京へ流出し続けた結果、地方は衰退の一途をたどっています。一方、東京では晩婚化、少子化が加速して、いびつな人口構成になっています。

地域の再生なくしてこの国の復活はないといわれていますが、山古志は震災から力強く復興し、土地の特性を活かし錦鯉や棚田、アルパカ牧場、スキー、観光などによって自立した経済を営んでいます。

山古志で見た夜空の星は身近で、人と宇宙が近づく限界のように思え、先人達が育んだ伝統文化を力強く継承し闘牛大会を盛り上げている若者達は輝いていました。

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