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コラム

第263回

「社内起業にも変革が必要」

「アパートメントホテルMIMARU」が訪日外国人ファミリーやグループに大変な人気だ。昨年に上野で1号店がオープンし、すでに東京や京都で10棟となった。来年までに30棟、1500室を目指すという。このホテルは訪日外国人が「暮らすように滞在する」をコンセプトにしたアパートメントホテルだ。

キッチンや調理器具などを常備し、出前もできる。リビング・ダイニングスペースを備え、4人を超える家族でも自宅にいるような気分になれる。フロントの多言語対応や通話かけ放題のスマートフォン貸し出しなど、安心して中長期の滞在ができる。

このアパートメントホテルはファミリータイプのマンションデベロッパー、コスモスイニシアの社内起業提案から誕生した。若手社員が2014年の社内起業塾に参加したことが発端となった。

「訪日外国人ファミリー向けの事業企画」を経営陣にプレゼンし承認を得て、15年に2人の若手社員による新規事業プロジェクトがスタートした。初めは空き家の有効活用を考えていたが、居酒屋などで訪日外国人ファミリーの生の声を聞き、これまでにないホテル企画が出来上がった。

プロジェクトのメンバーは不動産有効活用の視点で宿泊施設を探したが、市場には存在していなかった。それを自分たちが手掛けるチャンスと捉え、住宅のリノベーションで培ったノウハウを最大限に活かして独自のホテルを開発すべきだと担当役員に提案した。プロジェクトの担当役員は最終意思決定者の社長とボードメンバーの承認を得て、海外視察も経て検討を進めた。

17年には新会社のコスモスホテルマネジメントが設立され、プロジェクトの担当役員の藤岡英樹氏が社長に就任した。その後は試行錯誤を経て、日本初の「アパートメントホテルMIMARU」が18年2月に開業した。スタート時はホテル業界の経験者はおらず、専門運営会社に委託しながら一緒に新たなオペレーションの仕組みやルールを策定した。

現在は自社運営で、フロントや清掃員などを含めて1店を5人ほどで運営している。異分野の社内起業家が立ち上げたホテルが業界の常識を覆し、新たなホテル市場が誕生した。

アパートメントホテルMIMARUの開発はデータから市場分析をするアプローチではなく、顧客の声に気づいたことに起因する。社長と経営陣が社員に起業機会を与え、リスクテイクする覚悟と決断から次世代事業が生まれ、会社や業界に変化を与え始めた。

平成が終わり、新しい時代が始まった。令和の経営者は内部留保資金を有効活用し、社内起業家にもっと機会を与えて、未来の扉を開くためにイノベーションする決断が必要だ。

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