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コラム

第275回

「生かせ、シニアの経験値」

月曜の朝、当社のエントランスに車椅子が停まるようになって11年になる。持ち主は77歳のエグゼクティブアドバイザー、合志綱恭さんだ。日本マクドナルドの取締役営業本部長やCOOなど要職を歴任され、その後サンフレックス永谷園の社長に転じたプロ経営者だ。

数年前からフットワーク軽く活動され、元日本マクドナルド取締役人事本部長の新井昭彦さんとともに、豊富な経験知を活かして当社の経営に助言をいただいている。

新型コロナウイルスによるパンデミックは、産業の事業環境を劇的に変え多くの企業が脅威にさらされている。これまでも、バブル崩壊、阪神・淡路大震災、米同時多発テロ、リーマンショック、東日本大震災と数々の難局があった。成長期には1つの勝ちパターンとも言える戦略と組織マネジメントで構わないが、脅威を乗り越え成長していくには、多様な勝ち筋と組織変革が必要だ。

予期しない環境下で成長している企業には、大手や上場企業で実績を残したシニア人材の経験知やスキル、ノウハウを取り入れているケースが多い。そこからダイバーシティ(多様性)や受容を意味するインクルージョンが生まれ、持続的成長いつなげる原動力にしている。経験豊富なシニア人材とエネルギー溢れるメンバーが互いを認め合う一体化した組織が、変化に対し大きな役割を果たしているのだ。

2011年にスタートした再生可能エネルギー事業の自然電力グループでも、様々な業界から参加したシニア人材の活躍が目立つ。現在、栃木県に建設しているメガソーラーを手掛けるjuwi(ユーイ)自然電力では、70代の経験豊富な元工事会社幹部が、多くの太陽光発電所プロジェクトの品質管理を統括。次世代に技術を伝承しながら「人と事業」の成長を支える組織作りに大きく貢献している。

また、長野県の小布施町に流れる松川の水源を活用した「小布施松川小水力発電所」では、71歳の元JFEエンジニアリングのプロジェクトマネージャーが、企画開発から設計・工事を監督し、運営を担っている。この発電所は町の10%の世帯に供給できる能力を持つ。地産地消の発電所を通して各地域での「エネルギーの分散化と脱炭素化」を目指す取り組みだ。

スタートアップの中には、社会課題を解決する革新的なサービスや製品に挑戦している有望な企業が多いが、コロナ禍で企業価値が一変した。資金調達が困難になり、厳しい状況へ追い込まれ、事業モデルを転換する動きも出ている。経験豊富なシニア人材には、難問に取り組み修羅場を乗り越えたベテランが多い。シニア人材が呼び起こすダイバーシティやインキュベーションをスタートアップも取り込めば、持続的成長につながる可能性が広がる。

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