column

コラム

第276回

「障がい者は人材の宝庫」

「障がいのある人たちの就労移行支援の仕事をすることにしました」。数年前、佐原敦矢さんの訪問を受けた時の言葉だ。佐原さんはリクルートで人材ビジネスのキャリアを積み、当時は同社幹部を務めていた。転職の理由を訊ねると、「障がいのある在宅者は毎年増えているのに、就労している人は4%に満たないと知り、雇用を支援したいと思った」とのことだった。(2018年の厚生労働省の発表によると、体や心などに障害を持つ人の推計が約936万人、日本の全人口に対する割合で約7.4%に増大している。)

佐原さんは17年にスタートアップのココルポートへ転職。18年に社長へ就任した。同社は12年の創業で首都圏を中心に48拠点の事業所を展開し、地域の様々な会社と連携を取りながら就労移行支援を進めている。

今年4月には新たなサービスとして、青年期の障がい者向けに自立に向けた様々な知識や経験を積む学の場「ココルポートカレッジ」を開設した。「若いうちに生活面の基礎や対人スキルなどを身につければスムーズに働ける」との考えからだ。

これまで培ってきたノウハウを生かして、就労移行支援する前に、生活面や対人関係での自立を支援するカレッジだ。「生活スキルと職能スキルを習得することで、一人でも多くの障がい者の就労機会を創りたい」という佐原さんの経営理念に共感し、当社も投資を通して支援している。

日本は今「一億総活躍社会」の実現に取り組んでいる。少子高齢化で急速に進む人材不足は、国としても最優先の課題だ。働き方の効率化やAI活用も進んでいるが、生産年齢人口(15~65歳未満)は減少傾向にある。高齢者が増え続ける日本は、現役世代の負担が高まっている。

コンビニやファストフード店で高齢者や外国人の店員をよく見かけるようになった。一方で障がい者の雇用は増えているものの、実雇用率はわずか4%台だ。人手不足の日本にあって障がいを持つ人たちは、日本の埋もれた「人材の宝庫」ではないだろうか。障がい者を戦力にしている企業には、障がい者一人ひとりの特性や能力を深く理解し、業務を細分化して仕事に就いてもらっているケースが多い。経営層が義務として障がい者の雇用を果たすスタンスではなく、生産性向上や組織のダイバーシティに直結する効果が高いとして積極的に採用している。

ココルポートの現場スタッフが、「私たちは障がい者一人ひとりに寄り添いながら、その人に適した個別支援をしています。『どうしてできないのか』ではなく、『どうしたらできるのか』にこだわっています」と話すのはとても印象的だ。障がい者たちが、生き生きと働くダイバーシティ経営が、日本経済の持続的成長につながると信じたい。

コラムを毎月メルマガでご購読