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コラム

第280回

「ネントリーズ創業者の戦略的挑戦」

長引くコロナ禍にあって、創業経営者のリーダーシップで環境変化に柔軟に対応している企業が元気だ。「トラック王国」を運営しているNentrys(ネントリーズ)は昨年6月に物流・製造業界専門の人材事業を始めた。

ネントリーズは、2006年にインターネットメディア事業で創業したスタートアップだ。創業者の津島一夫さんは20代で3年間世界中を旅して、「世界で働く人々の笑顔と未来をつなげる仕事がしたい」との想いで会社を立ち上げた異色の経営者だ。社名は新規参入の「New Entry」に由来する。

同社は創業2年後に中古トラック・バス・重機業界に新規参入し、オンラインで「買取・販売」を手掛けるハブの役割を果たす革新的な会社だ。物流や建設会社のなかには、新型コロナの影響で深刻な人材不足に陥っている企業が増えている。今後、生産年齢人口の減少に伴い、人材不足は更に深刻になる。

Nentrysは創業時より「変化を待つのではなく、業界の常識をどう変えていくか」というモットーがある。新型コロナによる情勢から先を見据え、顧客データベースを活かした業界専門の人材事業に素早く挑戦し、順調に成長している。

経営者には、自ら会社を立ち上げた「創業経営者」、社員から就任した「サラリーマン経営者」、外部から迎えられた経営者がいる。創業経営者の多くは、大株主として自社株式を所有し、主要な意思決定を行う。一方、昇格したサラリーマン経営者は、資本と経営の分離により、株式は所有せず、経営の意思決定をする専門経営者だ。

創業経営者は、何から何まですべて自分でやらざるを得ないので、会社の全機能に精通する。一方、専門経営者は一部門の道を歩み、出世に価値を置く調整に長けたバランス経営者になるので、会社の全機能を知る機会が少ない。特にサラリーマン経営者は、前任の経営者の姿を踏襲したクローン型の経営スタイルになりがちだ。

経営者のミッションは、経営環境の変化に柔軟に素早く対応する最終の意思決定にある。創業経営者の多くは個人のお金で会社を立ち上げ、その後は個人保証で銀行から融資を受け、ベンチャーキャピタルや投資家から資金を集めたりする。創業経営者は会社の現状の痛みや危機感を誰より持ち、「不確実な明日に向かって、今なにを成すべきか」を考え、自らの全存在を賭けた決断をする。これが戦略的意思決定の本質となる。

「戦略的」とは、与えられた問題に対して解決していく「戦術的」アプローチではなく、自ら問題を創り出し、立ち向かうこと本質がある。コロナ禍でかつてない緊張感が漂う経営環境では、創業経営者の戦略的挑戦が、常識を超越し、産業界の構造を変える。

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