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コラム

第296回

「グローバル化と人材採用」

3月10日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。

現在、280万人を超える外国人が日本で暮らしている。2019年に新設された「特定技能」の在留資格政策などもあり、平成時代から在住外国人は増え続けてきた。しかし急速な円安と新興国での賃金高騰を受け、転換期を迎えている。

外資系企業が「真面目で質の高い日本人の労働力を割安で雇用できる」と、日本に製造拠点を作る動きが出ている。かつて安価な労働力を求め生産拠点を海外に移した日本メーカーも、国内回帰する企業が現れ始めた。中国では10年前は217ドルだった平均月給が、昨年650ドルを超えた。欧米で展開する日本企業は国内よりも海外従業員の年収のほうが高く、ファーストリテイリングでは賃金の見直しが進んでいる。

一方、少子高齢化に伴う労働力不足を解消するための外国人採用だけではなく、経営のグローバル化のための国際的な人材獲得競争が激化している。世界は今、ヒト・モノ・マネーがあらゆる情報・手段でつながるボーダーレス社会だ。日本では人口減少が続き、国内市場は縮小しているが、グローバル企業が海外で稼ぐ構図が強まっている。海外企業からの配当や利子などの収益額が10年間で2.8倍に膨らみ、年換算で50兆円を超え、国内総生産(GDP)比で1割に迫る。グローバル企業が世界で進めてきた現地法人の設立やM&A(合併・買収)が身を結んでいる。

中古トラック・バスの買い取り・販売の「トラック王国」を運営するNentrysは日本での一年の実践を経て、16年に東アフリカのタンザニアで路線バス事業を起業した。同国の国土面積は日本の2.5倍で、人口6,000万人の東アフリカ最大のマーケットだ。

Nentrysはグローバル戦略を実践するには起業家資質を持つグローバル人材が必要と定め、海外人材の報酬や仕組みを整え、事業立ち上げの幹部としてケニア人を現地で採用した。日本のリユースバス20台による路線バス事業がタンザニア市街の地元住民にとって不可欠な移動手段として育っている。

グローバル化への戦略的挑戦のためには、経営幹部人材獲得の国際競争に勝たなくてはならない。海外人材を採用する際、語学やスキルを重視した結果、ミスマッチで事業が立ち行かなくなるケースが多い。文化や価値観の異なる海外での事業展開は前例のない問題解決に向き合うことになる。自らの考えで柔軟に対応する起業人材が必須だ。語学は必要な要素だが、多様な人材と協働し、リーダーシップを発揮してやり遂げる人材を選出できるかが鍵となる。そして、国の法律や習慣の違いによるリスクや困難に対応し、国のルールに精通したアドバイザーを迎え、海外での仕事をサポートする体制を整え、長期の人的資本経営がグローバル化への道筋となる。

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