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コラム

第294回

「受け継がれる起業遺伝子」

12月14日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。

「受け継がれる起業遺伝子」

「受け継がれる起業遺伝子」

スタートアップのアンドパッドが122憶の資金調達をした。資金調達の累計は約209億円とスケールの大きな注目のスタートアップとなった。同社は建設現場の効率化から経営改善まで一元管理することができる施工管理アプリ「ANDPAD」を提供する。2016年にサービス提供を開始し、現在の利用者数は14万5000社を超え、38万人の業界関係者に利用されている。21年11月には「ANDPADアプリマーケット」を公開し、オープンAPIによる外部サービスとの連携強化を明確に打ち出すなど、国内で62兆円市場といわれる建設業界全体のDXを推進するプラットフォーマーを目指している。

同社を起業した稲田武夫さんとは12年に出会った。当時リクルートの社員だった稲田さんが当社のイントレプレナー塾に参加したことがきっかけだった。稲田さんの起業家としての背景にはリクルートのDNAがあるように思う。

「受け継がれる起業遺伝子」

リクルートのDNAは創業者の江副さんの行動指針「理念とモットー」に示されている。中でも、冒頭の3つの言葉に注目したい。

一つ目は「誰もしていないことをする主義」。これまで社会になかったサービスを提供して時代の要請に応え、同時に持続する高収益を上げていく。既存の分野に進出するときには別の手法での事業展開に限定し、他社のあとを単純に追う事業展開はしない。継続して社会に受け入れられれば、いずれ産業として市民権を得ることができる。

二つ目は「分からないことはお客様に聞く主義」。誰もしていない事業には先生が必要である。その先生とは新しいお客様と潜在的なお客様である。お客様に教えを請いつつ、創意工夫を重ね、仕事の改善を継続的に続けていくことが重要である。大切なことは自分の意見をもってお客様の意見を聞く姿勢である。自分の意見を持たなければ、お客様の本当の声を聞き取ることはできない。

三つ目は「ナンバーワン主義」。同業者が出現すればそれを歓迎する。同業間競争のない事業は産業として認められない。後発企業のよいところをまねすることは恥ずかしいことなどと思わず進んで取り入れ、協調的競争をしていき、ナンバーワンであり続ける。江副さんは「同業間競争に敗れて2位になることは我々にとっての死である」と言っている。こういう創業者の遺伝子がリクルートの企業文化や風土を形成している。

4年にリクルートから独立した稲田さんは建設現場の職人や現場監督と仲良くなり、2年にわたって建設現場の「不」を徹底的にヒアリングし、その課題を解消するサービス「ANDPAD」をリリースした。リクルートの遺伝子を受け継いだ起業家の挑戦が日本の先進国で最も低い労働生産性向上につながることを期待したい。

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