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出島インキュベーションの有用性 ── なぜ本社の会議室では新規事業は育たないのか

新規事業を本社の会議室で走らせようとすると、いつのまにか既存業務にのみ込まれ、会議体にのみ込まれ、KPIにのみ込まれて消えていく。心当たりのある方も多いのではないでしょうか。

「新規事業には専用の場が必要」ときいても、理由を社内で説明しきれないまま、別拠点やフリーアドレスのエリアを用意しておわってしまうケースもあります。しかし、物理的に席を離すだけでは、新規事業はなかなか育ちません。

本記事では、出島インキュベーション──通常業務から切りはなし、新規事業の検証に集中するための場──をご紹介します。なぜ本社の会議室では育たないのか。出島にすると何が変わるのか。インターウォーズが創業以来30年にわたって200社をこえる企業内起業に伴走してきた経験をもとに整理します。

なぜ本社の会議室では新規事業は育たないのか

新規事業がうまく立ち上がらないのは、担当者の能力不足だけが原因ではありません。多くの場合、原因は既存事業の「重力」です。

同じ空間、同じKPI、同じ会議体のなかで動いているかぎり、新規事業はどうしても既存事業のものさしで評価されます。 四半期の数字、既存顧客への対応、社内の調整事項。目のまえの業務はつねに”おおきく”見えるため、検証中の小さな事業は優先度を下げられがちです。

担当者の時間そのものも奪われていきます。同じフロアにいれば声がかかり、会議に呼ばれ、割り込みが発生します。仮説を立てて検証する時間が細ぎれになり、学びが積み上がりません。

そこで参考になるのが、江戸期の「出島」という考え方です。出島は単なる別拠点ではなく、本土のロジックから意図的に切りはなしつつ、外との行き来を設計した機能でした。新規事業における出島も、同じ視点でとらえる必要があります。どこに場を設けるかではなく、経営が意図して設計すべき”仕組み”の問題なのです。

出島の本質は「体をはなす」だけでなく「心をはなす」こと

はじめにお伝えしたいのは、物理的な距離は、出島の土台だということです。インターウォーズが200社をこえる伴走のなかで見てきたのは、イントレプレナーを本社のなかにおいたままでは、社内の重力にのみ込まれて事業が立ち上がらないという事実でした。

ですから、できるだけ社外に出し、伴走するインキュベーターのそばにおくことが理想です。同じフロア、同じ導線にいるかぎり、人も意識も既存業務に引き戻されます。別フロア、別拠点、本社の外のインキュベーション拠点など、通常業務から半強制的に切りはなされる場所を用意する。「出島スペースが用意されていない」ことそのものが、企業内起業がつまずく要因のひとつです。

そのうえで、物理的距離だけでは出島は完成しません。物理的距離を「体の分離」と呼ぶなら、重ねるべきは意思決定・時間・評価軸の「心の分離」です。体と心の両方がそろってはじめて、出島は機能します。

意思決定の分離:

新規事業の「進める/止める/方向転換する」の見極めを、既存事業の稟議や会議体とは別ラインに置きます。既存事業の意思決定プロセスは、売上責任や取引先との関係といった”守るべきもの”を前提に設計されているため、どうしても慎重さと合議が優先されます。そこに検証段階の新規事業をまぜこむと、ひとつひとつの判断に時間がかかり、現場がうごけなくなります。検証期間は、少人数・短サイクルで意思決定できるミニ経営会議のような仕組みを別に設けるのが効果的です。

時間の分離:

新規事業の進捗を、既存事業と同じリズムで、はからないということです。既存事業は、決算や予算のサイクルにそって、ロングスパンで成果をはかるのが通例です。一方、検証段階の新規事業に求められるのは、仮説 ・ インタビュー ・ 修正 ・再具体化を短いスパンでまわし、PoCを重ねていく動き方です。両者を同じものさしで管理しようとすると、新規事業の動きは止まってしまいます。担当者の時間のつかい方も同じで、既存業務と兼務のままにすると、最後には既存業務の締切に引っぱられることに。【週◯日/〇曜日は完全に出島で働く】のように検証に集中できる時間ブロックを制度として保つことも、時間の分離のひとつです。

評価軸の分離:

仮説検証フェーズの数か月間など、事業化前の検証期間は、売上や利益の額ではなく、顧客課題の解像度がどれだけ上がったか仮説がどれだけ更新されたかをみていきます。進捗を測るものさしも、四半期の数字ではなく、検証ステップごとのマイルストーンに置きかえます。事業化のフェーズに入れば、売上・利益・投資回収といった事業指標で評価すべきですが、段階によってみるべき指標を切りかえることを設計するのが出島の考え方です。

体と心のどちらも離してはじめて、新規事業は仮説検証のスピードと、担当者の当事者意識を保つことができます。サテライトオフィスやコワーキングをいれることそのものが目的になると、看板だけ「出島」に陥りがちです。

出島インキュベーションとは、新しい場所を用意するだけの話ではありません。既存事業の重力から、体と心のどちらも切りはなす設計のことです。

出島で起きる3つの変化 ── 速度・当事者意識・新結合

体と心をどちらもはなすと、現場には3つの変化があらわれます。

仮説検証の速度が上がる

割り込みが減り、意思決定のラインが短くなることで、PoCのサイクルが、短いスパンでまわりはじめます。大きな事業計画を一度にまとめるのではなく、小さな仮説を次々に更新していく動きが自然になります。

当事者意識が立ち上がる

出島に入ったイントレプレナーの多くが、「指示を待つ」働き方から「自ら問いを立てる」働き方へと切りかわっていきます。インターウォーズでは、イントレプレナー(企業内起業家)を自ら機会を創り出す人と定義していますが、姿勢がもっともはっきりとあらわれるのは、通常業務から距離をおいた直後です。

異業種との「新結合」が起きる

出島の価値は、集中だけにあるのではありません。本社のなかだけでは出会えない業種・職種の人たちと、同じ空間で対話する機会が生まれることも、出島の大きな価値のひとつです。

インターウォーズでは、異業種交流の場である501会やインキュベーションルームといった装置をとおして、業界をこえた対話を意図的に設計してきました。業種がちがえば、見えている景色もちがいます。業界の変化をとらえる鳥の目、時代の潮流を読む魚の目、現場の「実は…」をひろう虫の目──別々の視座をもった人たちが、同じ場で言葉を交わすこと。それが新結合の源になります。

出島運営で陥りやすい落とし穴

一方で、出島を設計しても、運営次第で効果が大きく損なわれることがあります。200社をこえる伴走のなかで、とくに多く見られた落とし穴をご紹介します。

「隔離」と「放置」をとりちがえる

距離を置くことと、任せきりにすることは異なります。放置された出島は、方向性を見失い、検証の質が落ちていきます。伴走役のインキュベーターが、論点整理と顧客課題の深掘りをナビゲートしつづける。それが、経営陣・イントレプレナー・インキュベーターの三位一体で出島が機能する条件です。

本社との情報遮断が進みすぎて、移管が断絶する

出島の独立性を高めすぎると、成果が出たあとに既存組織が受け入れられません。経営陣との定期的な対話と、受け入れ先となる事業部との接続設計を、出島を立ち上げる最初の段階から組み込んでおく必要があります。

出島メンバーが孤立し、モチベーションを失う

少人数で本社からはなれると、評価されない不安や疎外感が生まれます。異業種との接点と、経営陣からの明確な期待表明を、運営のリズムのなかに組み込むことで、孤立感は大きくやわらぎます。

いずれも、場をつくったあとの運営設計の問題です。「出島をつくれば勝手に育つ」という発想そのものが、落とし穴の入り口になります。

出島を「森」に育てるために経営陣がすべきこと

新規事業を生み出す環境として、よくたとえに出されるのがシリコンバレーのようなエコシステムです。支援者、投資家、人材、先輩起業家などが豊かにそろった「森」のような環境が、新しい事業が自然に育つ土壌になっている──シリコンバレーのような環境は、日本国内ではまだ十分に育っていません。

だからこそインターウォーズでは、「森がなくても木が育つ環境を整える」という考え方を大切にしています。自然に森ができるのを待つのではなく、出島という人工の環境を意図的に設計する。設計の主体は、ほかならぬ経営陣です。

まず、「なぜ出島をつくるのか」を明言すること。検証を通じて何を学びたいのか、どんな事業領域で可能性を広げたいのか、経営としての意図を言葉にして共有する必要があります。

次に、インキュベーターを伴走者として配置すること。インターウォーズでは、新規事業の支援を「経営陣・イントレプレナー・インキュベーター」の三位一体で設計してきました。インキュベーターが出島に“いる”状態をつくり、論点整理・顧客課題の深掘り・意思決定との橋渡しを継続的に担う。伴走がつづいてはじめて、出島は学習する場になります。

そして、出島と母艦をつなぐ設計を、最初から描いておくこと。出島で芽生えた事業を、どのタイミングで、どの事業部に、どんな評価基準で戻していくのか。終盤で立ちはだかるのが、「移管の壁」です。出島で検証された事業を母艦である社内へ戻す局面で、評価基準・責任範囲・リソース配分のズレから、せっかくの成果が既存事業にのみ込まれてしまうことがあります。移管の壁をこえる設計もまた、出島の立ち上げ段階から組み込んでおくべきテーマです。

「場」ではなく「機能」としての出島

出島とは、本社の外に拠点を借りることではありません。物理的な距離(体の分離)と、意思決定・時間・評価軸の分離(心の分離)を重ねて、新規事業の仮説検証が成立する機能を設計することです。

体と心の両方をはなしてはじめて、速度・当事者意識・新結合がそろいます。運営では、隔離と放置を とり違えず、会社本体との接続を最初から描いておく。経営陣は、「なぜやるのか」を明言し、インキュベーターを伴走者として配置し、森がなくても木が育つ環境を整える役割を担います。

出島という「場」を実際に機能させるうえで欠かせないのが、壁打ちをはじめとする反復した対話です。体と心をはなした場を整えても、仮説を磨く壁打ちの反復がなければ、せっかくの時間は活かせません。出島という 「場」と、 そのなかでまわす 「手法」は、セットでとらえておく必要があります。

新規事業の環境づくりは、出島をつくって終わりではなく、 運営設計こそが成否を分けます。

インターウォーズでは、 創業30年・1,500人をこえるイントレプレナー、200社をこえる企業内起業の伴走経験をもとに、イントレプレナー塾やイントレパスを通じて、出島環境の設計から運営、事業化までをひとつながりでご支援しています。現行の新規事業環境を一度見直したいという方は、お気軽にお問い合わせください。