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コラム

第303回

「未来を創る企業内起業家」

過去6年にわたり、本コラムではイントレプレナーと企業内起業の現場で得た洞察を共有してきた。この経験は単利に理論上ではなく、実践に根差した論理と暗黙知に基づいている。]

私は、1995年にシリコンバレーから受けた刺激を背景にリクルートを退職し、インキュベーション事業をスタートさせた。

この過程で「シリコンバレーから学ぶべきだが、単に真似るべきではない」という考えに至り、日本独自のインキュベーション手法の重要性を認識した。これは、企業内起業とスタートアップへの投資を合わせたハイブリット型のインキュベーションに発展した。

米国でスタートアップが次々と生まれるのは、年間40兆円を超える大規模な投資や優秀な人材の流動性、新規株式公開(IPO)に限らない多様な出口戦略によるエコシステムが整っているからだ。

さらに米国では、新しいことへ挑戦する、大学発のスタートアップが国民に高く評価される。

これは米国人特有の「新規性追求遺伝子」によって支えられているとも言える。一方で、日本ではベンチャーキャピタル(VC)からスタートアップへの投資が1兆円にとどまり、出口戦略はIPOが主流となっている。

その結果、比較的小規模な資金調達が多く、スタートアップの成長を妨げる傾向にある。

日本の代表的な企業を振り返ると、豊田自動織機からトヨタ自動車が生まれたように、イントレプレナーが社内の経営資源を活用して、新しい産業につながる事業を立ち上げる形でスケールした企業が多数存在する。

企業内起業の最大の利点は、資金、人材、ブランド、技術など自社の経営資源を活用できる点にある。「死の谷」を乗り越えるには開発フェーズよりも大きな資金が必要になることが多い。

日本企業の内部留保は500兆円超と、この資金を企業内起業に投資し資金不足を回避することは大きな優位性となる。しかし、既存事業の論理を優先する組織文化が、不確実な新規事業への挑戦を阻むことがある。

企業内起業が成功する鍵は、起業家精神を持つイントレプレナーの選定と、個の情熱を最大限に活かす組織の構築にある。起業の成功要素を事前に明らかにし、不確実性を管理する技術や知識、組織の障壁を回避する能力が成功の分岐点となる。

日本は今、「失われた30年」と呼ばれ、世界一の債務国となりプレゼンスが低下している。新しい産業が生まれ、成長しなければ、日本の将来に希望が持てない。

かつて日本では、起業家精神に富んだ多くのベンチャー企業が経済を活性化させ、国を繁栄させた。日本のエコシステムは企業内に存在し、「やりたい」という社員の情熱が新たな価値を創造し、個の情熱を活かす土壌を育てることが将来につながる。

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