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コラム

第302回

「会社で起業するキャリア」

スタートアップの主な課題はスケーラブルなビジネスモデルを開発する技術とネットワーク構築のための資金調達と人材確保だ。

初期段階では銀行の融資を受けることが難しいため、ベンチャーキャピタル(VC)やエンジェル投資家からの資金集めに奔走する。VCは通常、10年間の投資期間を設定し、最初の5年間で投資を行い、次の5年間で投資回収を目指す。ファンドは通常、3年から5年の間に投資額を上回る利益の回収を目指しており、スタートアップは短期間での収益化が求められる。

スタートアップはスケーラブルなビジネスモデルを完成させることだけでなく、短期間での売却の機会も投資家に提供する必要がある。VCの投資資金の回収期限が迫るにつれ上場を急ぐことから、小規模なIPOが多くなりがちだ。日本のVC市場の成熟度は米国や中国などの市場と比べて低く、資金調達規模に影響を与えている。

さらに、日本の株式市場の規模が米国や欧州の主要市場に比べて小さいため、グロース市場での新規株式公開(IPO)時の資金調達額が少額となっている。その結果、市場からの資金調達による投資拡大がスケーラブルな成長を加速させる循環につながらない。

また、会社を辞めて独立したスタートアップ起業家が、自ら人生を賭けてVCから資金調達し、短期間でスケーラブルなビジネスモデルに挑戦する結果、成功と失敗が入り混じる「多産多死」の状況に陥っている。

スタートアップ成功の鍵は、限られた経営資源の中でビジネスを成功させることにある。これは、最適化された損益分岐点を持つ、低コストで効率的な組織を構築することで達成される。

私は、起業家精神を持つ社員が会社を辞めずに、組織の枠外で活動し、会社の経営資源を活用することで成長を実現できると考えている。そのために「出島インキュベーションプレイス」というプラットフォームを通じて、イントレプレナーに環境を提供している。

新しい「場」によって意識や行動が変わることでイノベーションが生まれやすくなる。このアプローチの実例として、ソニー企業内起業家、久夛良木健氏によるPlayStationの立ち上げがある。

「新しいエンターテインメント」への挑戦として社内ベンチャーを設立し、ソニーの技術部門の支援を受けて画期的なイノベーションを実現した。

このように、イントレプレナーが経営資源を活用することでスケーラブルなビジネスを築き、企業の持続的イノベーションを促進することが可能だ。

このアプローチは、資源が限られている中で創造的な解決策を求める単独スタートアップにはできない、イントレプレナーの有効な戦略となり得る。

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