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コラム

第7回

「雪国のアントレプレナー」

過日、「北條さん、いやぁーーお久し振りですぅ。今、東京駅なんで、ちょっと寄りまーす!!」「是非に!顔見たいです!!」といったテンポの会話の後、来社され20分で次のアポイント先に疾風のように行かれた、新潟県松之山村ベンチャー企業のリュウド社長長澤さん。

20分足らずの時間でしたが「会っている時間は関係ないなぁ~」と、改めて実感する方なのです。

長澤さんとの出会いは、今から5年程前のことになります。新潟県主催の、ベンチャー育成のセミナーで講演した吉井の出島理論に共感され、自らが、新規事業立ち上げの責任者として、当社の出島スペースに、(社長なのに)新潟の松之山から東京に単身赴任されました。

そして、弊社の出島インキュベーションスペースを東京事務所とし、多くの新規事業のチャレンジをされました。

リュウド社は、アプリケーションツールやソフトウェアの開発を行う企業です。技術開発も絡んでくるので、簡単に新規事業は進まない事業体ですが、長澤さんは、持ち前のバイタリティーと明るさで、開発に取り組んでおられました。

長澤さんは、海外でのビジネス経験からくるのかもしれませんが、考え方がとても、グローバルです。

彼にとって、4メートル雪がつもる新潟県松之山も、東京や大阪のネオンの都会も、中国の大きな工場しかない後進地域も、経済の先端をいく、ニューヨークも、技術の宝庫のヨーロッパも、すべて点でしかなく、ノートPCを片手に、どこにでも「居れる」方なのです。

出島スペースの頃、誰よりも早く出社し、大好きな珈琲を煎れて、新聞をゆっくり読む時間を楽しんでいる姿がとても懐かしく思い出されます。

新規の事業開発が一段落した頃、災害に遭われ、松之山の本社が半壊によって移転されました。そして、昨年、真夏に大きな水害に見舞われた後、更に、あの新潟大地震の被害にあわれたのです。

本社には、ひびが入り、社員の方のご実家や、御親戚は未だ、避難所で生活なさっているということです。しかし、そのような状況の中にもかかわらず、業績は安定しており、今期も黒字だとの御報告でした。

長澤さんに、災害後の普及時にお電話をした際、明るい声で「生きてマース。命があるから大丈夫デース!」と、そして、来社した際、悲惨な話に困惑している私に「大丈夫です、命があるから」と爽やかに話され私の方が、勇気を貰いました。

リュウド社は、70以上のアイディアから、新潟の山奥で出来るビジネスを絞り、多くの失敗の末、ようやく完成したモデルで成功された企業です。その間の苦労たるや、筆舌に尽くしがたかったはずですが、きっと「命があるから」の思考で、多くの困難を明るく乗り切られてこられたのだと私には思えました。

優しい(人気グループGRAYのテルに似ているのです)風貌にも関わらず、明るく新潟の方言を素敵に使いこなす長澤さんが、時々国の壁を越え、各国の友人達と流暢な英語で楽しそうに笑いながら語っているシーンに触れると、これからの時代のベンチャーを感じる思いが致します。

「命があるから」とさらりと言い放った「雪国の起業家」長澤さんの言葉は、何処の国でも、いつの時代もアントレプレナー達が、語る共通のスピリッツのように私には思えました。

そして、そういったスピリッツを持った彼の開発する商品は、PCを打つ人に優しいキーボードや、携帯メールを打ちやすくする、ポケットサイズのキーボードだったり、携帯で遠隔操作できる防犯機能システムといった、常に、人の身になった優しい商品ばかりです。 

「命ある限り」、人に優しい、いい物を創り続ける長澤さんの開発した商品が、いつかきっと、街中いたるところで、目にする日も近いと信じています。

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