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コラム

第66回

「知識と文化」

2月の始め、ふらりと寄った老舗のレストランで、隣席の話題に気がいってしまった。

「だからさ、日本に伝統工芸が受け継がれてきた最大の理由はね、天皇制!」(えっ??)「天皇が発注していたのよ、工芸品を」(なるほど…。)
「そういう文化、伝統を大事にしていたのは、岩崎弥太郎あたりが最後らしいよ」(へぇ…。)
「現代の金持ちは日本の文化を大事にしていないよ。○○なんて、個人資産があんなにあっても、海外にしか興味がないし」(そうなのかぁ…。)
「国の連中も文化は残して欲しいとかいっているけど、その前に仕事よこせっていうのよ」(そうだ!そうだ!)
「でもさ、美大の学生が、継承者がいなくて途絶えていた和紙の技術を、残っていた器材を活用して復活させて、それが今や話題の紙になっているらしいよ。嬉しいよね」(そりゃ、いい話だ。)
等と、しっかり内容が聞こえるので、しばらく一緒になって考えてしまった。

行きずりの方々の会話にこんなに興味が沸くとは思わなかったが、まさに共感する話だった。日本の大人が、資産家が、日本の文化、伝統を守らなければ、国の歴史の重さなど、自ずと消滅していくに決まっている。

お金を稼ぐ事は、その金を何に使うかでその人の価値が決まると思っている。いくら稼いでも、自分の欲望だけに使う人と、人々の成長や存続に役立つ事を残す人とでは格が違う。

そもそも、利益とは
・今の利益の最大化ではなく、未来をつくること
・利益は未来創造の為のコストとみること
・持続的成長に不可欠なもの
と高名な経営学者も言っておられる。

今の日本は、安いものを求めるあまり、国内での仕事が激減し、その結果、多額の税金を投入してそのつけを払っている。自分達で自分の国を追い詰めているのだ。

そのような中でも、商売に気概を持って、こういう時代だからこそ、日本の内需に貢献しようと努力されている方には本当に頭が下がる。

主婦の内職で、縫製の優れた子供服を安価で販売する会社も素敵だし、良質な食べ物を産地から直送できる仕組みをつくったネットビジネスの会社も素晴しいと思う。大きな流れの中では、本当に小さな波紋にしかならないのが寂しいが。

そう言えば、すでに10年も前から、今の事態を予測し、憂いていた方を思い出した。ファッションビジネスコンサルタントとして、30年の歴史を持つ、株式会社TOMの柳田先生。まさに会話も装いもおしゃれな、本物のファッションコンサルタントだ。

語る言語に幅広い見識と慈愛が溢れる人格者。いつお会いしても、品のある装いに一点だけ目の覚めるような挿し色を使いこなし、帽子、スカーフもさりげなく洒落ている。まさに洋服を知り尽くした英国紳士を髣髴させる着こなしをされる。

先生のお仕事は、ファッションビジネスの世界で生きる方々へ、商売を成功させるための考え方を教示する事なのだが、その理論は、人間学や、生態学に基づいて語られるので、実に面白いし、納得感もある。その昔、生態学に基づいて、女性・男性の嫉妬の要因も解りやすく教えて頂いた。

近年は、日本の各地の商業開発者に、地域の特性を生かした施設づくりを提案されている。個人的には、自宅で野菜を栽培したり、廃棄される繊維を再活用するプロジェクトを立ち上げられたり、国際的なボランティア活動に参加されたりと忙しい。

長い間の景気の浮き沈みを経ても、30年変わることなく、原宿の一等地に事務所を持ち、知識という種を蒔いて周りを育てていかれた事は、素晴しい功績だと思っている。

知識と文化の継承は忘れてはいけないと改めて思い直した。

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