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コラム

第96回

「『心も』お直し屋」

今から17年前、掲げた目標は、起業家を50人支援して、1,000億の事業を実現することで、日本の雇用創造に貢献することだった。当時は、ITバブル時代の幕開けでもあり、多くの起業家と遭遇し、各社の上場を夢見て興奮した日々を送っていた。

その志に共感して参加してきたメンバーの殆どは、独自のアイディアを持って起業した。社長を目指す人材の集団に、興味を持たれた方々が沢山いる。中でも、CCCの増田氏に、インターウォーズという会社は梁山泊だねぇと楽しそうに言って頂いた事は、よき思い出となっている。

そんな時代のメンバーの一人に、洋服のお直しをリアル店舗とインターネット受付の両方で行っている会社の代表者の服部氏がいる。

急成長のコンサルティング企業にいた彼は、寝る間も惜しんで仕事をするので、いつも眼が赤く、そんなに根をつめて仕事をしていたら体がおかしくなると心配したものである。

少しは、楽に仕事をして欲しいと思いインターウォーズに誘ったにもかかわらず、結局仕事に入ると、寝食を返上しても結果を出すことに努力を惜しまない人であった。

会社や、お客様の期待に応えるという責任感が強いのだが、強気でせめてくる人ではない。彼と話をしていると、心が落ちついて、心の穴が埋められていくのである。

顔も声も優しいせいか、なにか、こう、ほっこりとした気持ちで、じわじわとささくれた心が修正される。私だけなく、彼を知る人は皆同じ気持ちのはずだ。

先日、久しぶりに現況を報告し合いながら食事をしていたら、またもや同じように癒されていく気分になっていた。何年たっても変わらない優しさは本物だ。

創業経営者の苦労は、生半可ではないのだが、弱音をはかずに、明るく上手に乗り越えている。さらりと話す苦労話にも、笑いの要素を欠かさない。心配をかけない配慮なのだ。そういう彼だからこそ、提供するサービスに魅力が出る。

本来、お洋服のお直しというのは、縫製作業の倍の手間がかかる仕事である。覚える技術が多く、物の代わりが無いので、細かい神経を使う仕事だ。その割には価格には限度がある。買ったほうが安くなっては意味がないからだ。職人さんの気持ちが優しくなければ、いいサービスが出来ない。

中には、難しい注文もあると思うが、思い出の品や、お気に入りの品には、他にない愛着がある。直ってくると本当に嬉しいものである。

彼の率いるお直し店は、そういうお客様の喜ぶ顔を浮かべながら、少しでも綺麗に仕上げるように努力をしてくれる集団になっていると思う。会社の心をつくる社長が、心の穴やほつれも直してくれる達人なのだから。

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