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コラム

第73回

「吉野家のクライシスマネージメント」

企業は、環境に適応しながら生きていく生き物である。外部環境の変化に適応できない企業は、やがて必ず衰退の一途をたどる。

最近、BSEをはじめ、鳥インフルエンザ、鯉ヘルペスといった感染病の情報で外食産業に激震が走った。マクドナルドの価格破壊戦略や国内の狂牛病騒動を乗り越え、デフレ経済の勝ち組みとして、日本が誇る”ファストフードの至宝”吉野家ディー&シーにしてみれば、BSEによる原材料の輸入停止は、最大の経営危機だ。

吉野家の安部社長とは、親しくさせていただいているが、今回の米国狂牛病騒動は、私にとっても心ザワツク思いだが、一連の報道後の対応があまりにも早く、カレー丼をはじめとする多くの新メニュー提供や、オペレーション時間の変更等に、正直驚いた。

話を伺うと、前回のBSE騒動の経験から、米国でも狂牛病が発生することを想定して、「危機管理マニュアルを作成していた」とのことであった。

そのとき起こりうる、様々な事態を予測して、商品開発、仕入れルート開発、物流、オペレーション、人材ローテーション、IR、マネージメント体制、 etcといった様々な内容のシナリオを議論して策定しており、社員の対応も迅速で底力を感じる。

心配をさせまいとの配慮もあるのだと思うが、社長自身は、困難の時ほど気が入るとのことであった。 しかし、米国産牛肉の輸入禁止は吉野家にとってみれば最悪のシナリオであり、経営者の手腕が問われるが、現場のアルバイターとして入社してから社長まで、異例の昇格を重ねて上りつめた『ヒーロー』として社員を始め、多くの人に親しまれている名経営者だけに、何とか危機を乗り越えて欲しい。

吉野家の牛丼だけに限らず、他の会社にも多くの影響を及ぼした今回のアクシデントは、一業態でしかも商品を単品に絞った量販の業態経営の、危うさを露呈することになってしまった。

一つの単品を極めたからこそ、品質を極め、ここまで業績を上げてきたと思うが、今後の選択と集中企業経営のあり方を考える機会になった。

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