column

コラム

第124回

「近江商人」

ゴールデンウィークに、近江商人の発祥の地といわれる滋賀の五個荘と豊郷を訊ねた。今でも、街全体に旧商家が散在し、街並みには風情ある白壁と船板塀の蔵屋敷が残っていた。

この地は、てんびん棒をかつぎ全国に飛び出て、豪商へと成長拡大した代表的な起業家として、伊藤忠商事、丸紅の創業者伊藤忠兵衛や中国に一大百貨店を築いた中江勝治郎などを始め、高島屋、大丸、西川産業、トーメン、ヤンマー、東レといった多くの商人(起業家)を生んだ地である。

琵琶湖のほとりの小さな町から、これだけ多くの起業家が誕生し、拡大した背景には、「諸国産物廻し」といって各地域の産物を仕入れ、よく売れる地域で販売するビジネスモデルと、独自の資本管理と流通システムの確立があった。そして、何よりも近江商人の理念として、次のような考え方が、今でも語られている。

1.「三方よし」(さんぽうよし)
「売手によし、買手によし、世間によし」、売り手と買手だけでなく、出先地域での経済的貢献をすること。

2.「しまつして、きばる」
遠い地域間の価格差を利用し、商売相手の利益を優先して考える薄利で、利益を上げるためには、他人の嫌がる労を進んで「きばり」、長期的にみて経済の合理性を求め「しまつ」をすること。(ケチと誤解されやすいが、「しまつ」の極意)

3.「奢者必不久」
生活は質素に、手織木綿の衣服を着、常にわらじをはき、粗食で粗末な家に住み、陰徳を積むことを喜びとすること。

4.「好富施其徳」
商売が繁盛して富を得るのは良いが、その財産に見合った徳、すなわち社会貢献をすることが重要であり、商いが大きくなると共に商人も大きな徳を持った人間へ成長しなければならない。

目前の利益を求めるだけでなく、遠くを見据える近江商人(起業家)の理念、そして、ビジネスのモデルは、今日の激変する経済環境でゴーイングコンサーンを目指す企業に、示唆を与えている。

コラムを毎月メルマガでご購読