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コラム

第272回

「循環型社会へ向けた投資」

東大キャンパスの一室に「Green Earth Institute」と言う企業がある。直訳すると「緑の地球研究所」。社員総勢31名のバイオスタートアップだ。

同社は「コリネ菌」という微生物を使った革新的バイオファイナリー技術を持つ。食べられずに捨てられる再生可能な茎や葉、木などの原料をもとにバイオ燃料やグリーン化学品を製造、事業化に成功した。新たな産業「バイオファイナリー」のリーダー的企業として世界から期待が寄せられている。

社長の伊原智人さんは、元経済産業省のエリート官僚という異色の経歴を持つ起業家だ。同省で幅広い分野のキャリアを歩み、米国留学で知的財産権を学んだ。官民人事交流の第1号としてリクルートに入り、大学発の特許を民間企業に移転するビジネスで経験を積んだ。 その後、資源エネルギー庁や内閣官房国家戦略室で重要な任を担い、政策を立案する傍ら、バイオスタートアップの起業家に転じた。

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「地球温暖化や化石燃料中心のエネルギー、人工増加に伴う食料不足といった課題をバイオファイナリーで解決したい」。こんな伊原さんの志に惹かれ、当社では投資や幹部の人材紹介、大手企業との提携などの支援をさせていただいている。

世界は今、新型コロナウィルスのパンデミックにより、歴史的な危機を迎えている。地球温暖化がウィルス感染に影響を及ぼしているとの説もある。危機が示すのは、サステナビリティ社会に向け、人の命を守る分野での経済価値を高めることだ。

コロナ危機はIT企業群が活躍した時代から、循環型社会へ向けた研究開発型テクノロジーに人々の関心が向かう時かもしれない。世界的に創業間もないスタートアップの資金調達に逆風が吹くなか、機関投資家たちが、ネット企業を爆発的に急成長させ短期間な利益を追求する考え方を転換。Green Earth Instituteのような、世界の課題に向き合うグローバルスタートアップに資金を着実に供給し、長期的な成長につなげようとしている。

財務省による日本法人企業統計で昨年、内部留保金が7年連続で過去最大を更新し463兆円に増大という発表があった。豊富な資金に加え、他にない製造技術ラインやグローバルな販路を持つ企業も多い。スタートアップ投資のためのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)もコロナ危機前まで数多く設立されている。足元で減速しているが、今こそ好機と捉え、「本当に大切で必要なもの」に取り組むべきだ。アフターコロナの時代、グローバルスタートアップと大手企業のオープンイノベーションをつなげ新事業を加速させることが、日本が世界で勝てる道筋だ。

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