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コラム

第273回

「地方移住、いずれ新常態に」

「故郷の新潟にUターンし移住することにしました」。新型コロナウイルス感染拡大の渦中、支援先の起業家から連絡があった。千葉県柏市に本社を構え、アプリ開発とデータ分析を手掛けるフラーの社長、渋谷修太さんからだった。同社は100人規模のスタートアップ企業で、千葉以外に東京、新潟、韓国に拠点を持っている。

移住の理由を訊ねると、「コロナの影響でアポが激減し、仕事もフルリモートになった。最初の頃は不便さを感じたが、ウェブ会議中心のワークスタイルになってから、以前よりも仕事の効率が上がった。しかも、打ち合わせのために移動していた時間も疲労もなくなった。今までなぜあんな生活をしていたのか、もう以前の生活には戻れない」とのことだった。

渋谷さんによると、「一度洗濯機を使ってしまったら、手洗いには戻れないのと一緒の感覚なのだ」という。ウェブ会議が急速に普及したことで、今までのように“とりあえず会う”アポはなくなり、“これは対面にした方が良いな”という選択になる。どこに住んでも仕事に支障がないなら、わざわざ東京に住む必要もないので、大好きな自然あふれる故郷の新潟に移り住んで仕事をしようと決めたのだ。

新潟にいると「必要としてもらえている」とモチベーションが上がるのだという。「自分たちのようなIT企業は圧倒的に少なく、経営者としても役に立てることがたくさんある。せっかくなら、自分の存在価値を一番実感できる場所が良いと思った」と移住を決断したそうだ。

在宅やリモートワークが普及し働き方は変わった。通勤時間はなくなり、どこに住んでいても仕事ができるスタイルは、子育て世代の支援につながる。

都会から地方の戸建てを求めて移住する人が増えていると聞く。日本は他の先進国に比べデジタル・トランスフォーメーション(DX)が遅れている。特に地方は顕著でコロナ禍をきっかけに、地方でもデジタル化を進める好機をいえる。

以前紹介したオンラインの医療相談アプリ「LEBER(リーバー)」は、その後、参加する意思が270人を超え、コロナ禍もあり成長している、365日24時間スマホで医師に相談できるサービスは日本のどこに住んでいても利用できる。この結果、都市と地方の医療格差がない世界が生まれた。

コロナ禍に伴うニューノーマル(新常態)では産業のDXだけでなく、フラーの渋谷さんのように地方に移住し、新たな挑戦をする働き方やライフスタイルを選ぶ人が増えてくるのかもしれない。先行きが見通せない経済状況のなか、生活様式や働き方の意識の変化が、「地方回帰」の流れを生み出し、それがいずれニューノーマルになるだろう。

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