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コラム

第279回

「バイオマスプラに新潮流」

2020年7月1日、全国の郵便局でレジ袋が変わった。非食用の米を原料としたバイオマスプラスチックを30%配合したレジ袋だ。

バイオマスプラスチックとは、トウモロコシやサトウキビなどのでんぷんや、食品廃棄物を原料とする新素材。持続可能な社会に貢献する切り札として注目されており、ごみ焼却などで排出される二酸化炭素(CO₂)の削減が見込まれている。この革新的なレジ袋を開発した会社は、全国有数の米どころである新潟県魚沼市にある。国産米のプラスチック樹脂製造をうたうバイオマスレジン南魚沼だ。

原材料は国内の食品製造業から出るフードロスや災害米、日本酒の醸造課程で削られる米粉、古米など。主力製品は米を70%配合した「ライスレジン」で、石油由来の樹脂と比べコストや形成性、強度などほぼ同等レベル。既存製品に対しても競争力があり、サーキュラー・エコノミー(循環型経済)の一端を担おうとしている。

20年9月、3.11の風量被害に遭った福島県浪江町の休耕地を活用し、資源米から作るバイオマスプラスチックの生産拠点を設立した。地元農家の繁忙期と収穫時期を変えた試みで事業効率を高めている。さらに北海道、熊本、高知といったコメの産地で、スマート農業によるバイオマスプラスチック資源米の生産に着手している。

バイオマスプラスチックはバンダイグループなど大手玩具メーカーの知育玩具や文具、家庭用品、レジ袋、食品トレーなどの様々な製品に加工され、次々と市場を掘り起こしている。

創業者の神谷雄仁さんは、15年近くひとつの研究開発に取り組んできた起業家だ。多くの波に翻弄された粒々辛苦の道のりで、「何度も心が折れそうになり、もう駄目だと思った。」と振り返る。研究開発分野で新たな事業を立ち上げる起業家には、既存の価値観でジャッジする「障壁」が立ちはだかる。特に、これまでにない概念の開発テーマは、許容範囲が狭いので断念することが多い。

神谷さんに事業を諦めなかった理由をたずねると、「農家のおじいちゃんや町工場のおじさんから認められたことで活路が見出せ、社会の役に立てると思った」とのことだった。社会起業家の顔を併せ持つ神谷さんの志に共感し、当社も投資など積極的に支援している。バイオマスレジンは環境、地域、フードロス、農業といった社会課題を包含しながら、ビジネスとサステナビリティを両立。成長を続けている。

環境省は国際バイオマスプラスチックの年間出荷目標を、2030年までに現状の50倍に当たる約200万トンに拡大すると発表した。この潮流のなか、全国で米生産1位の新潟県魚沼市のスタートアップの挑戦が、新たな産業創成の歴史を刻んでいる。

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