第330回
Incubationは“人”である──技術よりも、まず「人」を見つめる時代へ
インキュベーションとは何か。この問いへの答えは、時代が進むほどシンプルになってきました。
結論を言えば、Incubationとは「人」であるということです。どれほど技術が進化し、ビジネスモデルが複雑化しても、この本質は変わりません。むしろ変化が激しい今だからこそ、“人”という普遍的な要素が持つ力がより際立っています。
目次
1:投資家が見ているのは“技術”ではなく“人”
私の親しいベンチャーキャピタリストは、「成功の99%は人にある」と断言します。
技術やサービスは一瞬で陳腐化する。しかし、人は変わらない。社会的には「素晴らしい技術だから投資した」と語るほうがロジカルに聞こえますが、投資家が本当に見ているのは“誰がやるのか”の一点です。
創業者のセンス、経営チームの強さ、向上心、しつこさ。
これらがスタートアップの命運をほぼ決めてしまう。投資家が重視するのは、小さくても成功体験を積み、成功も失敗も身体に刻んでいて、落とし穴の気配に敏感で、“伸びるパターン”を自然に察知できる人です。
極端に見えるかもしれませんが、「明日起業したいが何をやるか決めていない」という人でも、対象にする投資家もいます。ビジネスはアイデアよりも「人の型」でできているからです。
事業は途中で変わっていきます。
しかし、その人の行動様式、スケール感、目線の高さは変わらない。だからこそ、“人”こそ最も持続する資産だと捉えています。結局、新規事業の成長を決めるのは「誰と働くか」に尽きるのです。

2:成長しない組織の特徴と“人材”の決定的役割
これまで多くのインキュベーションに関わる中で、成長しない組織には共通点があります。
・自分よりスペックの低い人しか雇わない
・ワンマン体制で居心地のよい“個人商店”を築く
・自分の言うことを聞きそうかどうかだけで採用を判断する
こうした起業家は、どれほど優れた経歴を持っていても会社が伸びません。
一方で、自分より優秀な人を採用し、ときに起業家の座すら譲る覚悟を持てる経営者は、大きく成長していきます。
ここにあるのも、やはり「人」の問題であり、起業組織は、チームの力以上には広がりません。だからこそ、インターウォーズは人材紹介の機能を有しているかどうかが、インキュベーション後の未来を左右すると考え、人材紹介部門を持つようになりました。
さらに、創業メンバーの選び方も、「専門性があるから」「知名度があるから」では不十分です。
本当に“この人と働きたいか”。信用できるか。許せるか。自分が倒れても会社を守ってくれるか。
この基準で集めたチームは、逆風にも耐える人の強さに帰結するからです。そして、視点を国外に広げることも欠かせません。
日本市場は縮小している。
「国内で成功してから世界へ」という発想そのものがすでに古く、最初から世界基準で挑戦できる視点を持った経営者、チームが肝要です。
3:インキュベーションの核心は“パターンを見抜く力”
■ インキュベーションの核心は“パターン”を見抜くこと
技術が劇的に進化する現代では、知識だけで戦うことは難しくなっています。だからこそ、インキュベーションの武器は「パターンマッチング」です。
・膨大な失敗例を見ている
・成功例を深く理解している
・あった瞬間に“伸びる人”の輪郭が見える
これは経験量によってしか磨かれません。そして、この“人を見抜く力”こそ、インキュベーションの根幹です。
4:インキュベーターとは“温泉”のような存在
私がインキュベーターに抱くイメージは、孵化器として“温泉”に近いものがあります。温泉の役割は、冷えた身体を温め、血流を促し、人が本来持つ治癒力を引き出すこと。インキュベーションも同じです。
インターウォーズでは、創業期インキュベーションマザーの呼称を持つの女性が存在し、この役割を担っていました。
・その人の資質を見つけ
・あたため
・引き出し
・成長させる
技術でも資金でもなく、人そのものが湧き立ち、力を発揮する状態をつくる。それがインキュベーションの価値です。
5:“人”こそ永遠の資産である
事業は、結局「人」がつくるものです。どれほど環境が変わっても、“人”だけは普遍です。
・誰がやるのか
・どんな仲間を集めるのか
・どんな目線を持っているのか
・成功と失敗をどう積み上げてきたのか
事業の99%はここで決まります。インキュベーションとは、人を見て、人を信じ、人を育て、人と未来をつくる営みです。
技術でもスキームでもなく、最後に残るのは「人」である──それが、インキュベーションの本質です。
