第328回
AI時代に必要とされる「リベラルアーツ」
AIの進化が加速する今、多くの経営者や起業家が「リベラルアーツ」に関心を寄せるようになってきました。その背景には、AIの急速な進化によって「人間とは何か」「経営の目的とは何か」といった根源的な問い「経営者や創業者の規律」が、これまで以上に突きつけられている現状があります。
パーパス(存在意義)やウェルビーイングを語るときにも、哲学や心理学といった人文系の知識は欠かせません。

ピーター・ドラッカーが「経営とはリベラルアーツである」と繰り返し述べたのも、人間と社会への深い理解がリーダーにとって最も重要だと考えたからでしょう。問いを立てる力、本質を見抜く力、人間への洞察力。
リベラルアーツは、海図なきAI時代を進む私たちにとっての“羅針盤”になり得るものです。知識の幅を広げることは、イノベーションを生むアイデアの源泉にもなります。
リベラルアーツとは何か?
リベラルアーツ(Liberal Arts)の語源は、ラテン語の “Artes Liberales(アルテス・リベラレス)” にさかのぼります。古代ローマでは自由市民と奴隷が区別され、リベラルアーツとは「自由市民が身につけるべき教養」を指しました。起源は古代ギリシャにあり、その後ローマ帝国で体系化されました。
当初は「天文学・数学・幾何学・音楽」の四学科から構成され、後に言語や論理へと広がっていきます。つまりリベラルアーツとは、単なる「幅広い知識」の寄せ集めではなく、世界を理解し、人間を理解し、より良く生きるための“思考の道具”として発展してきた教養体系なのです。
現代のリーダーにリベラルアーツが求められる3つの理由
1つ目は、AIの進化によって「問いを立てる力」が価値になっていることです。AIは膨大な情報処理を担いますが、「何を問うべきか」を決めるのは人間の仕事です。だからこそ、思考力・判断力・倫理観といった、人間ならではの能力の重要性が高まっています。
2つ目は、パーパスやウェルビーイングが重視される時代になったことです。企業が存在意義や社員の幸福を真剣に語るためには、哲学・心理学・倫理学といった“人間理解”に関する知恵が不可欠です。経営は、数字のマネジメントにとどまらず、「人の生き方」そのものと向き合う営みに変わりつつあります。
3つ目は、変化の激しい時代にこそイノベーションが求められることです。テクノロジーの急速な進化により、多くの企業がビジネスモデル転換を迫られています。経済学者シュンペーターは「イノベーションは異なるアイデアの新結合から生まれる」と述べました。
私たちインターウォーズは、この“新結合”を生むには、豊富な知識や視点を持つ多様な業界の起業人が集い、議論することが必要だと考え、イントレプレナー塾を立ち上げてきました。そこから多くの新規事業が創生されています。
知識の幅とイノベーション
リベラルアーツは「知識の幅」そのものと言えます。ビル・ゲイツ、ジェフ・ベゾス、イーロン・マスクなど、世界的企業の創業者たちは、膨大な知識をイノベーションに活かしてきました。
たとえばベゾス氏は、トヨタ生産方式に学び、「アマゾンの倉庫にトヨタの改善思想を取り入れる」という決断をしたと言われています。異なる分野の知を“結び直す”力こそが、新しい価値を生むのです。
経営判断の拠り所としてのリベラルアーツ
業績が厳しくなった際に「何のために働くのか」「会社は何のために存在するのか」といった哲学的な問いを徹底的に考え抜き、社員との対話を重ねた結果、会社が再生したと多くの経営者は語っています。
生きる意味を考えることはAIにはできません。それは、人間だけが向き合える営みです。
歴史や哲学を学ぶことは、単なる趣味や教養ではなく、より良い判断を下すための「視座」を手に入れることでもあります。リーダーの決断の質は、その視座の高さに大きく左右されます。
課題設定力こそ、リーダーの武器になる
リベラルアーツを実践する経営者たちには、共通点があります。それは、「問題解決」よりも「課題設定力」を重視しているということです。
リクルートが大きな変革を遂げてきた背景にも、“アジェンダ(論点)設定を重んじる文化”が大きく影響したと言われています。何をテーマとして掲げるのか。どこに問いを立てるのか。その「問いの質」が、組織の未来を左右します。
人間と社会の理解が、確かな経営判断を生む。リベラルアーツとはまさに、そのための基盤なのです。
AI時代だからこそ、「速く答えを出す力」ではなく、「そもそも、何を問うべきか」を考え続ける力が、リーダーに求められています。
