第1回
経営幹部の語りかける3つの問い

私はインキュベーション事業の社長として30年にわたり、企業内起業の支援に携わり、実践と研究を積み重ねてきました。イノベーションというと、つい「天才的なリーダー」や「先鋭的なスタートアップ」を思い浮かべがちです。しかし、現代のように複雑性が高まり、変化が速い時代において、一人の天才や特定の研究開発部門だけに依存したイノベーションはもう成り立ちません。
むしろ、組織に属する一人ひとりの力を引き出し、継続的かつ体系的にイノベーションを定着させていくことこそが、企業が進化し続けるために不可欠だと確信しています。
その中心的な存在となるのが、当事者意識を持って、自分の言葉で語る「イントレプレナー」です。
彼らは現場の最前線に近い立場でありながら、経営の視点も持ち得る存在です。現場の社員が安心してアイデアを提案できる環境を整え、モチベーションを高め、継続的にサポートする“インキュベーター”としての役割が期待されています。また、部門を超えたつながりを生み出し、経営層と現場をつなぐ“接着剤”としての機能もイントレプレナーには求められます。
私は経営者や経営幹部の方々に、メンバーからアイデアの提案があった際には、まず否定から入らず、「提案してくれてありがとう」と感謝を伝えていただきたいと常に話ししています。そして、メンバーが自ら考える習慣を身につけられるよう、
①顧客にどんな価値をもたらすのか
②会社にどんな価値をもたらすのか
③そのアイデアをどう実現するのか
――この三つの質問を繰り返し投げかけることの重要性を強調しています。
この問いを習慣化することで、点と点がつながるように新たな発想が積み重なり、イノベーションの流れが自然と生まれていくのです。
継続的な変化とイノベーションを実現してきたリクルートの強さも、まさにここにあります。意欲ある多様な人材プールと、リングやフォーラムといった「イノベーションを習慣化する仕組み」が文化として根付いている点が、同社の革新性を支えています。
インターウォーズでは、この“社外の装置”として20年前に「イントレプレナー塾」を立ち上げました。これまでにさまざまな業種・業態の企業から、1,000名を超える社内起業家を志す皆さまに参加いただき、多くの新規事業がここから生まれ、育ってきました。
既存の文化や事業とのシナジーを生みながら、社会に新たなインパクトをもたらすイントレプレナーに、より多くの機会を提供し、育てていく。
そうした取り組みが、これからの企業を支える力になると、私は強く信じています。
