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コラム

第291回

「投資決断を変える一言」

8月31日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。

「投資決断を変える一言」

「あぁ、この起業家とはやっていけない」。投資依頼の場で起業家が発するひと言でそう決断することがある。

言葉を発した起業家はそんなことになるとは思わず、無意識の一言だと思う。

その言葉を聴くのは、熱のこもったプレゼンが終わり一息ついた雑談のときや、帰る間際のことが多い。その「ひと言」は、その人の生き方や考え方が内面から出た本音の言葉だ。人や社会に寄り添う生き方ではなく、自己中心的で自分だけがよければいいと考えている生き方が見えてしまう。そういう人には、最終的に誰もついてこず、社会も支持しないだろう。

この「言葉」は緊張から解放されたときに無意識に出るものでコントロールはできず、その人の内面が映し出される。

失言ではなく、言葉は体を表すものだ。

「投資決断を変える一言」

どんなに歴史のある大企業も、はじまりは「たった一人の起業家」が立ち上げたスタートアップだ。創業時「誰のために」「何のために」その事業をやるのか、考え抜いた言葉には生命力があり、生き方が映し出されている。その想い溢れる言葉に共感した人々が集い成長した企業には創業者の思想や哲学が宿り企業文化となっている。

起業家から相談を受けるとき、必ず「どうしてその事業をやりたいの」と聞くのは、どんな社会課題を解決できるか確認したいからだ。社会性のない企業は事業価値が上がらないので長続きしない。世界では多くのユニコーンが誕生しているが、「世界を変える」ための手段と考え創業したケースが多い。こういった起業家が立ち上げたスタートアップには資金や人が集まり、現場力が高い組織ができ、長期視点で先読みした経営戦略ストーリーによって社会を変革していく。かつての起業家はまず「利益」を上げたあとで社会的な貢献に努める傾向が強かった。

現代のユニコーンに共有するのは利益のみを追求するのはなく、社員を含めた「人」、地球の「環境」にも配慮していく、融合スタイルの起業家像だ。多くの起業家は自ら考えた事業は成功すると信じることから出発する。

しかし、それが正しいかを決めるのは顧客であり市場だ。顧客と常に接して、顧客の声を聴いて、人や社会に寄り添い事業を磨き上げなければ、一時的に成功しても持続しない。企業経営は時代の洞察であり環境適応業といわれる。

新型コロナによって、世界の多くの企業は「自社のレゾンデートル」を突き付けられ、考える機会となった。

地球レベルの環境問題が増大し、人々も社会の認識も変わった。

これからの起業に必要なことは「人(People)」「環境(Planet)」「利益(Profit)」の融合であり、脱炭素をはじめSDGsを包含したサステナビリティ経営を目指すことにある。

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