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コラム

第281回

「経営の本質は変わらない」

コロナ禍で企業の地力が浮き彫りになった。多くの企業が苦戦する中で、外食のピエトロの底力を見た。昨年5月、ららぽーと豊洲でレストランの新業態「PASTA & TAPAS PIETORO」がオープンした。

創業時からの明太子を活かしたパスタを始めとするメニューは変わらず、サラダが食べ放題で、好みのピエトロドレッシングを自由に選べる。ドレッシングを前面に推したレストランはこれまでにない店舗だ。サラダ食べ放題で「健康とおいしさ」を組み合わせることで、コロナ禍にあっても子供連れや若い女性で賑わっており、独自戦略の真価が発揮された形だ。

コロナ禍での受動的な対応では競争優位の真実の姿はわからない。同じ環境下の同じ業界内でも企業間の業績は明暗が分かれた。ピエトロはレストラン運営とドレッシングを製造販売しているが、ドレッシング販売のきっかけはレストランのお客様の声だった。

創業時、パスタが茹で上がるまでの時間に出したサラダのドレッシングがおいしいと評判になり、「このドレッシングをかけると野菜嫌いの子供がサラダをきれいに平らげてくれる」と、お客様からの希望でドレッシングを販売するようになった。以来、ピエトロのドレッシングで子供たちの野菜嫌いを直し、「健康を考える」ことがテーマとなった。レストランでのドレッシングの売れ筋をマーケティングに活用し、ドレッシングメーカーとしての経営に役立てている。

ピエトロの商品開発の起点は論理的な市場分析からのアプローチではなく、お客様から「おいしい」といってもらいたいという創業者の執念だ。「おいしさの追求に経営資源を集中させた」ことで独自の商品が生まれた。ビジネスは変化の連続だが、どんな環境変化が訪れようとも、競争力の本質は変わらない。本質とは「そう簡単には変わらないもの」だ。

ピエトロの創業者である村田邦彦さんとは生前親しくさせていただいており、何度かこんな話を聞いた。「“おいしい”の一言がピエトロのすべて。何度も言われたい。お客様を感動させきらないと、ブランドというものはできない」

創業者の村田さんの魂が練り上げた「おいしさの追求に磨きをかけていく戦略」は今も変わらない。そして、本質を守りながらも常に進化し続けるスピリッツも変わっていない。戦略の本来の力は競合他社との違いを創ることにある。創業者のこだわりや思想が、唯一無二のレストランとドレッシングのハイブリット型ビジネスモデルとなった。

昨年、ピエトロは創業40周年を迎えた。一軒のレストランから上場企業にまで押し上げた起業家の魂が二代目社長の高橋泰行さんに伝承され、ピエトロ物語の挑戦は続いている。

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