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「現状維持は衰退だ」——創業80年のメーカーが今も新規事業をやめない理由

「好況よし、不況なおよし」——。外部環境に波があるほど、企業は“変わり続ける力”を問われます。

創業から80年近く、燕三条のものづくりを背負いながら事業領域を変え続けてきたのが、株式会社アベキンです。

今回の対談では、代表取締役の阿部隆樹社長に、なぜ今も新規事業・事業開発に取り組み続けるのか、そしてアベキンをどんな会社にしていきたいのか——過去から未来へ、意思決定の軸を伺いました。

イントレパス新潟が生んだもの:参加者の変化と、経営陣の本気

菅野(インターウォーズ):今回、イントレパス新潟に高橋俊介さんを送り出していただきました。プログラムを通して、高橋さんの取り組みや変化を、阿部社長はどう見ていらっしゃいましたか。

阿部社長:一言で言うと、成長したと思いますね。最初は「守る」から入ってきた感覚がありました。でも今は「破」にいっている。

菅野:守破離でいうと「守」から「破」へ。

阿部社長:そうです。前任の佐藤がやってきたものを引き継いで、まず守るに行った。でも、営業数字としても1億を超えた。あのインパクトは大きいと思っています。

菅野:当日も印象的だったのが、阿部社長を含め、参加企業の代表取締役の皆さまが複数名会場にいらっしゃったことでした。経営陣が“その場に立ち会う”というのは、参加者にとっても大きなメッセージになりますよね。

阿部社長:そうですね。新規事業って結局、本人だけが頑張っても前に進まない。経営が本気で関わるかどうかで、空気が変わる。今回の場は、社内外に対しても「ちゃんとやる」という姿勢を示す機会になったと思います。

菅野:インターウォーズとしても、経営者の皆さまが同じ場に集まり、企業の枠を超えて議論できたことは、トップリレーションの可視化としても大きな価値があったと感じています。

「好況よし、不況なおよし」——浮き沈みの先に、変化対応力がある

菅野:これまでお伺いしたお話の中で印象的だったのが「時代の波に翻弄された浮き沈み経営」という言葉でした。アベキンの歴史は、まさに波を受けながら“事業を変えて生き残ってきた軌跡”にも見えます。

阿部社長:そうですね。うちはずっと「同じことを続けて伸びる」というより、環境変化に合わせて“やることを変えてきた会社”なんです。

菅野:象徴的なのが、事業転換の年表でした。たとえば、

   1947年:創業(洋食器の研磨業からスタート)
   1957年:日米貿易摩擦で受注が激減し、OEMメーカーとして農機具製造へシフト
   1973年:オイルショックの影響を受けつつ、物流台車製造へシフト
   1991年:バブル崩壊し財務が悪化、債務超過に陥る
   2005年:オフィス家具業界に新規参入
   2008年:リーマンショックで受注が激減
   2012年:GMSやコンビニ再編の波に乗り店舗什器の受注が拡大
   2017年:M&Aを成長戦略として投資し、グループシナジーを生む段階へ
   2020年:新型コロナウイルス感染拡大によりオフィス家具や店舗什器の受注が激減
   2022年:自社オリジナルインテリアブランド「KUROSHIRO」を立ち上げ
   2024年:グッドデザイン賞受賞
   2025年:中目黒に直営店オープン

阿部社長:結局、「好況よし、不況なおよし」なんですよ。景気が良いときに伸ばすのも大事だけど、不況や外部環境の変化が来たときに次の打ち手を持っているかどうか。そこが会社の生存力になると思っています。

危機から始まった経営と、「変える」覚悟

菅野:ここからは、阿部社長ご自身の経営の原体験に踏み込ませてください。阿部社長が「新規事業は必要だ」と確信するに至った背景として、アベキンはどんな状況からスタートしたのでしょうか。

阿部社長:20年くらい前ですね。会社としては債務超過からのスタートでした。借入も大きくて、当時は「このままじゃ続かない」という危機感が前提にありました。

菅野:危機感が出発点だった、ということですね。

阿部社長:そうですね。だから「守る」だけではダメで、ちゃんと“変えていく”必要があった。業界も変えるし、作るものも変える。そうすると仕入れも変わって、利益の出し方も変わる。そういう構造を作らないと未来に投資できないのですよね。

変化を生むために、新規事業は“必要条件”になった

菅野:「新規事業」というと、特別な飛び道具のように聞こえることもあります。阿部社長にとって新規事業は、どういう位置づけですか。

阿部社長:僕は新規事業を“特別なもの”だとは思っていなくて。現状維持のままでは、じわじわ削られていく。だから、変化を起こし続けるのは必要条件です。

菅野:「やりたいからやる」だけでなく、「やらないと未来が作れない」という感覚ですね。

阿部社長:そうです。もちろん順序はあります。売上規模がないのに、いきなり大きな投資はできない。だから、まずは足場を固めながら、次の挑戦へ投資できる状態を作る。その繰り返しです。

アベキンの成長をつくった「三段ロケット戦略」

菅野:今回、阿部社長が印象的に語られていたのが「三段ロケット戦略」でした。改めて、整理して伺えますか。

阿部社長:大きく3つです。

     1つ目は、新規開拓で利益体質を作ること。
     2つ目が、その利益をM&Aに投資して“時を買う”こと。
     3つ目が、そこで生まれた利益をブランディングへ投資すること。

菅野:新規開拓→M&A→ブランディング投資、という順番ですね。

阿部社長:そうです。これって一度きりじゃなくて、サイクルで回していく。新規開拓も続けるし、M&Aも今も話が複数あります。

M&Aで“時間を買う”。グループ化の意味

菅野:2段目のM&Aについて、もう少し詳しく伺いたいです。なぜM&Aだったのでしょう。

阿部社長:一社で伸びようとすると、設備や箱、人、仕事を全部そろえなきゃいけない。時間もコストもかかる。だからM&Aなのです。自分たちにない技術や安定収益を取りにいく。

菅野:その結果、単体でも12億を超えて、グループ全体でも25億に近いところまで来ている、と。

阿部社長:はい。グループ6社すべて黒字、という状態まで持ってこられたのは大きいですね。投資も回収も、ちゃんと数字として見えてきています。

ブランディング投資の先にある、次の事業開発

菅野:そして3段目が、ブランディング投資。ここが「新規事業」と強くつながってくる部分だと思っています。

阿部社長:そうですね。ブランディングは、単に見た目を良くする話じゃない。将来の投資のための“土台”にもなります。採用にも効くし、ファンができると強い。

菅野:ここで一度、KUROSHIROについても整理しておきたいです。KUROSHIROはアベキンが立ち上げた自社オリジナルのインテリアブランドで、黒と白を基調に「空間に自然と溶け込み、使う人の価値観やライフスタイルを引き立てる」ことをコンセプトにしていると伺いました。

そのKUROSHIROを立ち上げて得られた変化としても、採用への効果や社内の誇りみたいな話がありました。

阿部社長:ありますね。ただ僕の感覚だと、KUROSHIRO単体で「1個いくら儲けたか」を追うというより、メーカーとしては稼働率が大事なのです。いくつ売れるかが結局強い。だから、売れる構造を作ることが大事です。

菅野:投資判断も、そこにつながっていく。

阿部社長:そう。売上規模が上がれば、次の人材投資もできる。卸の機能を強化したいとか、市場の目利きを取りにいくとか、次の手が打てるようになる。

これからのアベキン:メーカーから、価値提供の総合体へ

菅野:最後に、これからのアベキンをどうしていきたいか。未来のイメージを伺えますか。

阿部社長:メーカーとして作るのは前提として、これからは卸や小売も含めて、サプライチェーンを強くしていきたい。売れるものがわかれば、自分たちで作っていける。グループには直接部門で100人以上の人材もいますし、素材も鉄だけじゃなく、ステンレス、アルミ、アクリル、木材と揃っている。

菅野:グループの資源が、次の価値づくりの“伸びしろ”になっている。

阿部社長:そうですね。現状維持は難しい。だからこそ、資源を活かして新しい価値を作り続ける。新規開拓、M&A、ブランディング投資——このサイクルを回しながら、次のステージに進みたいです。

菅野:ありがとうございました。アベキンが「なぜ新規事業に取り組むのか」が、過去から未来まで一本の線でつながるお話でした。

阿部社長:ありがとうございました。

※本インタビュー内容は、イントレプレナー育成プログラム終了後の対話をもとに、一部要約・再構成しています。