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日本車の「内憂外患」──トランプ関税ショックと中国車の台頭が迫る選択

インターウォーズ株式会社 インキュベーションディレクター・日高達治が、37年の商社経験と南米での現場知見をもとに、モビリティ業界の変化を読み解くシリーズ第3弾。今回は、前回のEVを中心とした考察から一歩引き、激変する国際環境の中で日本車メーカーが直面する“内外の危機”にフォーカスする。


前回のコラムからわずか2カ月。にもかかわらず、自動車業界を取り巻く環境はさらに混迷の度を深めています。原因は、トランプ大統領による日替わり関税政策。予測不能な通商政策は、すでに各社の株価と決算に影を落とし始めています。

トヨタは2025年4〜5月の2カ月間だけで1,800億円の損失を試算、ホンダは2026年3月期に向けて6,500億円の減益影響を想定、GMに至っては最大5,000億円規模の損失が見込まれると発表。マツダや日産は、もはや業績予測すら発表を見送る状況です。

1.「誰が得をするのか」が見えない米国の関税政策

今回の関税政策は、米国内製造への回帰を狙ったものとされています。しかし実際は、自国メーカーであるGMやFordですら、グローバルに展開するサプライチェーンに依存しているため、むしろ痛手を被る側に回っています。米国で販売されるクルマの価格が上昇し、そのツケは最終的に自国の消費者が払うという矛盾も浮き彫りになっています。

しかも今回の関税は完成車だけでなく部品にも及び、各国との貿易交渉が継続する中で、関税交渉の「落としどころ」が極めて見通しにくいのが実態です。

今後数カ月、メーカー各社は米国向け販売が落ち込んでも生産ラインを止めるわけにはいかず、余剰分を他市場へ振り替える動きに出るでしょう。その結果、欧州・アジア・中東・南米などの市場で、勢いに乗る中国車との熾烈な価格競争が不可避となります。

中国メーカー、特にBYDなどは、EVだけでなくPHVにも強みを持ち、輸出から現地生産への動きも迅速。価格競争力だけでなく、製品ラインナップや戦略展開の機動力という点でも侮れません。特に、かつて日本車が独占してきたアジア市場で、中国メーカーが確実にシェアを浸食している動きは深刻なサインと言えるでしょう。

2.内なる課題:「縮む」日本市場の現実

外の混乱に加えて、日本国内市場の長期的な縮小も日本メーカーの足元を揺るがしています。1990年のピーク時に777万台を誇った国内新車販売は、2024年には442万台台へと激減。特に軽自動車が市場の約4割を占める特殊な構造は、台数こそあるものの利益面では厳しい現実を突きつけています。

これを補うため、日本メーカーは、現地生産とともに輸出の競争力を高めてきました。結果、自動車産業は日本のGDPの15%、輸出額の15%を占め、かつては世界最大の自動車輸出国にのし上がりました。

それだけに、今回の関税ショックで最重要市場である米国への輸出が打撃を受けるというのは、日本車各社にとっての死活問題であり、日本経済全体への波及も避けられません。

世界自動車産業専門調査会社”FOURIN”「人口減少日本の21世紀自動車市場研究」

3.日本車メーカーの「これからの選択」

今後、日本車メーカーが取るべき道は2つに集約されます。

 1.日本での生産を前提にコストダウンで吸収するか
 2.米国現地生産に移行するか

いずれにせよ、工場の建設、人材の確保、部品サプライチェーンの再編成には年単位の準備と巨額の投資が必要です。このような局面では、EVの開発や投資の優先度が下がる可能性も高く、現に日産は日本での電池工場計画を中止、ホンダも北米での電池投資を延期しています。

また、最近のトヨタと米ウェイモ、ホンダと中国オートXとの自動運転分野での提携も、自前主義からの脱却と判断でき、選択と集中の流れが加速している兆しといえるでしょう。

4.日産の再建、トヨタの安定

注目が集まるのは、ホンダとの提携交渉が破談となった日産の再建です。発表された再建計画は、1999年のゴーン氏による「リバイバルプラン」を思い起こさせる内容ですが、今回はカリスマ経営者も大株主ルノーの後ろ盾もなく、トランプ関税や新興メーカーとの競争など環境も一段と厳しく、新社長イバン・エスピノーサ氏の経営手腕に期待が集まります。

一方で、トヨタは2025年3月期決算で5兆円弱の高水準利益を維持。注目すべきは、利益の約半分が新車販売以外の領域から生まれている点です。金融、保険、部品、サービス、中古車ビジネスなど、既に売ったクルマで利益を出すモデルが確立されつつあります。

未来都市「ウーブン・シティ」に象徴される次世代技術への取り組みや、迅速な意思決定を狙った豊田自動織機の非上場化など、中長期視点での布石を着々と打っているのは、さすが“王者の構え”といったところでしょう。

5.BYD、日本の軽市場に本格参戦

最後にもう一つ、見逃せないニュースがあります。それは、中国のBYDが日本の軽自動車市場への参入を計画しているという報道です。

軽自動車は価格・維持費・サイズ感で都市部から地方まで幅広いユーザー層から圧倒的なニーズがあります。日本独自の規格のため、海外メーカーが参入した例はほとんどなく、トヨタですらダイハツのOEM供給を受け販売しています。

顧客は軽自動車にはブランドより経済性や実用性を求める傾向にあり、そこにBYDが手ごろな価格で商品力のある軽EVを投入すれば、市場の40%近くを占める軽市場で台風の目となる可能性もある。スズキやダイハツ、ホンダ、日産、三菱といった軽自動車メーカーは、今から真剣な対抗戦略が求められます。

100年に一度の技術革命 × トランプ関税という“二重の危機”

いま日本車が直面しているのは、100年に一度の技術革新という大波と政治リスクという荒波の“ダブルパンチ”。まさに「内憂外患」という言葉がぴったりの状況です。

それでも、日本車はこれまで70円台の超円高、リーマンショック、東日本大震災、そしてコロナ禍といった数々の未曽有の危機を、愚直なコスト改善と現場力で乗り越えてきた実績があります。

5年後、10年後の未来を見据えた時、日本車メーカーがどのような経営判断を下し、いかにして再び世界の信頼を勝ち取るのか。その進路を、これからも冷静に、そして現場目線で追い続けていきたいと思います。


インターウォーズでは、モビリティ関連企業の経営戦略から新規事業開発までを総合的に支援しています。

国際環境が大きく揺れ動く今こそ、現場に根ざした視点での意思決定と柔軟な戦略構築が問われています。

モビリティ関連に限らず、新市場開拓や事業再構築を検討されている方は、ぜひお気軽にご相談ください。